支払督促の流れ|簡易裁判所への申立方法や手続きにかかる費用を解説

画像はイメージです。実際とは異なる場合があります。

売掛金回収の際、裁判手続きを踏まなくとも債務者に金銭の支払いを請求できる手段が「支払督促」です。支払督促は訴訟に比べて手間と費用がかからない一方で、相手も簡単に異議申立てできるリスクもはらんでいます。

この記事では、支払督促のメリット・デメリットや手続きの流れ、必要書類、費用などについて解説します。「会社で支払督促を申し立てることになったが、方法がわからない」と不安に思う方は、ぜひお役立てください。

支払督促とは

支払督促とは、売買代金の支払いや貸付金の返済が滞っている債務者に対し、裁判所を通じて支払請求できる制度です。原則として、金銭の支払いを要求する際にのみ利用できます。

支払督促は、債権者であれば個人・団体を問わず申立てが可能です。例えば、マンションの大家が家賃を滞納する居住者に申し立てるケースや、会社がサービス代金を支払わない取引先に申し立てるケースもあります。

支払督促の仕組み 

支払督促では、申立人(債権者)の申立てに基づいて、相手方(債務者)の居住地を管轄する簡易裁判所の書記官が、相手方に金銭の支払いを命じます。裁判所が申立人や相手方とやりとりする際は主に郵送で行われますが、相手方から異議申立てがなければ、裁判の判決と同等の法的効力を持つのが特徴です。

しかし、支払督促を受け取った相手方からの異議申立てがあった場合は通常の訴訟に移行し、改めて申立人の請求内容が正当であるか審理することになります。

支払督促には相手方に求める支払金額の上限がなく、高額請求に対応しているのも、他の債権回収方法と異なる点です。民事訴訟では、簡易裁判所における少額訴訟は請求額が60万円以下の場合のみ受理され、140万円以上を請求する申立ては地方裁判所が担当します。

支払督促のメリット 

売掛金を回収するには、民事訴訟や少額訴訟を起こすこともひとつの手ですが、以下のような支払督促ならではのメリットがあります。

  • ・手数料が訴訟の半分である
  • ・短期間で簡単に手続きできる

まず、裁判所に納める手数料が、通常訴訟の半額である点です。100万円を請求した場合、訴訟を起こすには1万円の手数料がかかるのに対し、支払督促の場合は5,000円で済みます。支払督促では請求額に応じて手数料が高くなるため、債権額が高い場合や、抱える債務者数が多い場合に有用です。

また、支払督促の手続きは書類上のやりとりのみで進み、裁判所に行く手間が省けます。書類記入の際も詳細な証拠を集める必要がないうえに、手続きにかかる期間が1~2カ月と訴訟に比べて短く、忙しいビジネスパーソンにとって便利です。

訴訟よりも安く簡単に、財産差し押さえの強制執行申立てや債権の消滅時効更新といった法的効力を発揮できることが、支払督促の最大のメリットといえます。

支払督促のデメリット

一方で、支払督促にはデメリットもあります。特に、次の2つの懸念点に注意が必要です。

  • ・訴訟に移行するリスクが高い
  • ・相手方の住所が不明だと手続きできない

相手方の異議申立てにより通常訴訟に移行すると手続きの手間が増え、訴訟を取り下げると申立て費用が無駄になってしまうことに気を付けてください。結果として、最初から訴訟を起こした方が時間や費用がかからないこともあります。異議申立ては特段理由がなくとも受理されるため、多くの債務者が行うでしょう。

また、支払督促の通知は郵送によって行われるため、相手方の現住所が明らかでないと手続きが不可能です。通常訴訟であれば、裁判所の掲示板に訴状を掲げることで、行方不明の相手方に訴状が届いたことになる「公示送達」が利用できます。しかし、支払督促では公示送達が適用されません。

異議申立てされる可能性が高い場合や相手方の住所特定が難しい場合は、支払督促を行うべきかよく検討しましょう。

支払督促手続きの流れ

支払督促手続きは、下記のような流れで進みます。申立人が行うのは主に①、③、⑤であり、その他の手続きを担うのは簡易裁判所の書記官です。ここからは、それぞれのステップを詳しく解説します。

  1. 簡易裁判所で支払督促の申立て
  2. 支払督促を相手方に送付
  3. 仮執行宣言の申立て
  4. 仮執行宣言付支払督促を相手方に送付
  5. 強制執行

①簡易裁判所で支払督促の申立て

支払督促を行うには、まず相手方の居住地を管轄する簡易裁判所に申し立てます。その際は、会社の住所・法人名・代表者名や支払督促申立書に請求の趣旨・原因などの必要事項を記入し、直接または郵送で提出してください。

申立書は、簡易裁判所か裁判所ホームページで入手できます。申立書の他にも、手数料や会社の資格証明書などの提出が必要です。必要書類や費用については、後の章で詳しく紹介します。

②支払督促を相手方に送付 

申立書が受理され審査に通ると、簡易裁判所書記官が相手方に支払督促を送達します。申立人には、簡易裁判所から支払督促の発付通知がはがきで送られますので、必ず受け取ってください。

支払督促を受け取った相手が裁判所に異議申立てをせず、支払いに応じたのであれば、手続きは完了です。しかし、相手方が受領後2週間以内に異議を申し立て、これが正式に受理された場合、支払督促は失効し民事訴訟に移行します。

訴訟移行を受け入れるか取り下げるかは、最終的にかかる時間や費用が債権額に見合っているかどうかに応じて判断すべきです。

③仮執行宣言の申立て

相手方が支払督促受領後2週間以内に異議申立てしなかったにもかかわらず、支払いに応じなかった場合、申立人は仮執行宣言の申立てが可能です。仮執行宣言は、より強力な効力を持つ強制執行を行うために必要な宣言で、仮執行宣言申立書の提出が必要です。

仮執行宣言は、相手方が支払督促を受領して2週間を過ぎた日から30日以内に申立てなければ効力を失いますので、注意してください。

④仮執行宣言付支払督促を相手方に送付

仮執行宣言の申立てが審査を通過すると、裁判所書記官が仮執行宣言付支払督促を、相手方と申立人の双方に送達します。相手方は仮執行宣言付支払督促の受領後2週間以内であれば異議申立てが可能であり、異議申し立てられた場合は民事訴訟に移行します。

⑤強制執行

仮執行宣言が確定しても相手方から支払いがなければ、強制執行の申立てが可能です。強制執行では裁判所が相手方の財産を差し押さえるなどして、未払い金の回収を図ります。

強制執行の申立てには、仮執行宣言付支払督促と、その送達証明書が必要です。送達証明書は、仮執行宣言付支払督促を発付した裁判所で発行してもらえます。また、強制執行のために必要な相手方の財産の調査は、申立人側が行わなければいけません。

支払督促の申立てに必要な書類

支払督促の申立てを法人として行う際に必要な書類は、手続きする地域によってわずかに異なりますが、以下5点は必ず用意します。忘れずに入手し、不備のないよう記入しましょう。

    • ・支払督促申立書
      「表題ページ」「当事者目録」「請求の趣旨及び原因」の順に重ね、上部余白に捨印を押したうえで左側2カ所を留めます。
    • ・当事者目録と請求の趣旨及び原因のコピー
      押印する前に写したコピー各2通を添付します。
    • ・収入印紙
      手数料を納めるために必要です。請求額に応じた手数料分の収入印紙を申立書に貼り付け、消印はしません。
    • ・郵便はがき
      相手方に支払督促を送達した際の通知用です。債務者1名につき1枚用意し、宛名面に自社の住所と法人名・代表者名を記載します。
    • ・資格証明書
      法務局で3カ月以内に取得した登記簿謄本(「代表者事項証明書」または「履歴事項全部証明書」など)を添付します。

以上の他、切手を貼り付けて宛て名書きした裁判所からの返信用封筒や、相手方への送達用封筒も提出する必要があります。

支払督促の申立てにかかる費用

支払督促の申立てには、主に次の3つの費用がかかります。

  • ・手数料(印紙代)
  • ・郵便切手代
  • ・資格証明書と登記簿謄本の発行手数料

支払督促の申立てには手数料がかかり、収入印紙で裁判所に納めなければいけません。手数料は目標とする請求額が大きいほど高くなるものの、額の上がり方は緩やかになっていきます。請求額に対応する手数料の算出方法を、一部ですが表にまとめました。

請求額手数料
100万円以下10万円につき500円
100万円超500万円以下20万円につき500円
500万円超1,000万円以下50万円につき1,000円

請求額が120万円の場合、100万円分までは10万円につき500円、余剰の20万円に500円がかかるため、計5,500円の手数料が発生します。

郵便切手代は、封筒に必要分を貼り付け、書類と共に提出する郵送費です。郵便切手代は申し立てる地域や債権者数に応じて変わりますが、東京簡易裁判所の場合は少なくとも計1,245円かかります。

資格証明書となる登記簿謄本を法務局で発行する際も、手数料が必要です。金額は請求方法によって異なり、1通につき480~600円かかります。なお、申立て費用の一部は相手方に請求できることも覚えておきましょう。

まとめ

売掛金回収の手段として有効な、支払督促の流れや必要書類、費用などについて解説しました。支払督促は民事訴訟に比べて安く簡単に手続きできるにもかかわらず強い効力を発するなど、活用すべきメリットは多くあります。

一方で、相手から異議申立てされ、通常訴訟に移行することで時間や費用が余計にかかる可能性も大いに考慮しなければいけません。会社で支払督促が提案されたなら、本当に適切であるか冷静に判断できるようにしましょう。実際に支払督促の申立て手続きをする際はあらかじめ一連の流れを把握し、必要な書類と費用を過不足なく用意するのが、迅速な売掛金回収のポイントです。