【企業経営とリスクマネジメント】コンプライアンス違反倒産をリスクとして捉える

画像はイメージです。実際とは異なる場合があります。

今年夏ビジネス界の大ニュースの一つに、株式会社ビッグモーターによる車両保険金不正受給が挙げられるでしょう。

修理のため預かった車にゴルフボールを使って故意に傷をつけ車両保険金を増額受給していた問題は、当初は「大手でも姑息な手を使うことがあるのか?」との驚かれ方だったと感じられますが、今では「大手でもコンプライアンス問題で倒産の危機に追いやられるのか」との驚きに変わっていると感じられます。

今回はコンプライアンス違反倒産について考えていきます。

コンプライアンス違反倒産とは

コンプライアンス違反倒産とは、企業が法律や規制、その他一般的に受け入れられている倫理規定あるいは倫理感に適合しなかったため制裁等を受けたことにより経営困難に陥り、最終的に倒産に至る状況を指しています。

具体的には過積載や産地偽装などの「業法違反」が明るみになり法的制裁が課されて営業ができなくなる、あるいは罰金等により資金不足になる、所得・資産の隠蔽といった「脱税」が明るみになり逃れていた税金に加えて重加算税など追徴課税されて資金不足になる、あるいは架空売上の計上や融通手形などの「粉飾」が明るみになり社会的信頼性が失われ、顧客が離れる、仕入れ等の取引が継続できなくなる、これらに加えて株式暴落等も重なり投資や融資による資金調達が難しくなるなどにより倒産に至る現象を言います。

怖さの真因

コンプライアンス違反倒産の怖さは「それが引き起こされる理由が正しく捉えられておらず、このためリスクとして認識・マネジメントされていない」ことにあると筆者は考えています。

多くの経営者が「コンプライアンス違反倒産は儲け主義、あるいはノルマ主義によって引き起こされる。これらに陥っていなければコンプライアンス違反倒産は避けられるはず」と安心しているのではないでしょうか。あるいは「儲け主義やノルマ主義等を止めろと言われても無理なので、手の打ちようがない」と考えている経営者もいるかもしれません。

今回のビックモーター社や、以前に世界を震撼させたアメリカのエネルギー企業エンロン社の例等、あるいは上に挙げた業法違反や脱税、粉飾などが発生する事情等を鑑みると、「コンプライアンス違反倒産は儲け主義やノルマ主義等が原因」と考えてしまうのも、仕方がないのかもしれません。

しかし18000以上の倒産を審査してきた筆者からすると、この考えは「当てにならない。時には誤導される」と感じます。

例えば「犯罪の主要因は欲である」と言う表現について、「そうだ」と思われる方もおられるかと思いますが、実は当てにならない言辞です。「人間は誰でも欲を持っているが、ほとんどの人は欲を抑制して犯罪を犯さないようにしている。それどころか適切にコントロールすることで、欲を成長等の原動力にしている」という側面を見れば、あるいは「少なからぬ犯罪は損得では説明がつかず、逆に欲があれば生まれなかったはずの犯罪がある」という側面を見れば、「犯罪の主要因は欲である」という言辞の不確かさが分かるでしょう。

企業の存在意義から考える

企業は何のために存在しているか?短期的視点では「利益(儲け)を出すため」と言って間違いないと思われます。これからすると「儲け主義」や「ノルマ主義」は、当たり前のことを表現しているだけ、あるいはその手法を表現しているだけで、コンプライアンス違反倒産の原因となる邪悪な方針や手法を指す言葉ではありません。

逆に、売上・利益が伸び悩んでいる時に儲けにフォーカスしていなかったり、営業担当員にノルマを課すなどして目標達成を促すことをしない会社があれば、そちらの方が心配です。

このため「コンプライアンス違反倒産の原因は儲け主義やノルマ主義等で、これらは必要悪なので、その匙加減こそが経営だ」と考えていると、防止へと意識が向かず、仮に防止を目指しても徹底せず、コンプライアンス違反倒産を避けることができないという罠にはまってしまうのです。

コンプライアンス違反倒産を避けるには、その原因を正しく認識することがポイントになります。

コンプライアンス違反倒産の原因①儲け主義やノルマ主義のコントロール

筆者はコンプライアンス違反倒産の原因として第1に「儲け主義」や「ノルマ主義」等が適切にコントロールされていないこととが挙げられると考えています。

長期的目線がない

なぜ儲け主義やノルマ主義が適切にコントロールされないのか?まず、長期的目線がないことが挙げられます。企業が今期の儲けだけを考えて「適正利益を出しながら持続できる」という長期的視点を忘れると、どうなるか?「従業員を限界まで働かせると儲かる」とか、「設備投資等をせずに使い倒すと利益が出る」と考えてしまうかも知れません。

ここで留まればコンプライアンス問題は発生しませんが、更にエスカレートして「もっと売上を、もっと利益を」と追求してしまうと「法令に定められた以上を積めば売上が増える」とか「有名な産地のシールを貼れば売上が増える」、「ルールを逸脱して費用計上すると帳簿以上の儲けが手元に残る」あるいは「融資に有利となるよう実現していない売上を計上する(税務申告用とは別の決算書を作成する)と借入ができ、次のビジネスの原資になる」という発想に歯止めがかからなくなり、コンプライアンス違反倒産が見えてきてしまうのです。

このため「適正利益を出しながら持続できる企業を目指す」という長期的視点を取り入れることで、「儲け主義」や「ノルマ主義」等が適切にコントロールできるようになります。

社会性がない

儲け主義やノルマ主義が適切にコントロールされない理由として次に「企業は社会に生かされているので、反する行為はできないのだ。時には社会にプラスとなる貢献を目指したい」という気持ちが失われることが挙げられます。

従業員を雇い働かせて儲けを出す企業は、従業員に生きる糧を与える社会的な存在です。我が社の事業によって他の企業も事業が可能になる、あるいはお客様(人)が生活し楽しくなる製品やサービスを提供している、自分たちは敵同士と考えている競合が、高い視点で見ると力を合わせて大きなプロジェクトの完遂に貢献しているという意味合いに気付くと、企業は社会的な存在であると理解できるでしょう。

社会性ある企業を目指す経営者は、「儲け主義」や「ノルマ主義」等を適切にコントロールできるようになります。

コンプライアンス違反倒産の原因②リスクとして認識・管理されていない

コンプライアンス違反倒産の原因として第2に、それがリスクとして認識・管理されていないことが挙げられます。例えば火災や水害、地震、自動車事故等のように損害・損失を引き起こすリスクについては、事態の発生または損害・損失の発生を防止・抑制するマネジメントを行うのが常識ですが、コンプライアンス問題についてもリスクとしてマネジメントの対象とするのです。

具体的には、コンプライアンスポリシーや規程等を策定し、その実施や達成を管理する体制を整えること、現場従業員の隅々にまでコンプライアンス教育を提供し法的規制や企業ポリシーを理解させると共に、規定の実施手順などについてトレーニングを行い、適切な行動を取るためのスキルを身に着けさせ定着させること、内部監査プログラムを策定・強化してコンプライアンス違反や不正行為を早期に発見し、対処する仕組みを整えることなどが挙げられます。

コンプライアンス違反倒産を避ける取組は、まずリスクと認識して対策を講じた上で、適正利益を実現して持続する企業を目指すという長期的目線、社会の一員として貢献することで存在意義を確立、従業員や顧客・取引先、ひいては社会から愛顧される会社を目指すという社会性でもって補強していくという形になると思われます。

コンプライアンス違反倒産しそうな企業を見分ける視点も、上に準じたものになります。これらについては次回に検討していくことにしましょう。

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