連載開始にあたって
最近企業にとって「困ったこと:リスク」が次々と発生しています。事業活動は工場の火事や交通事故などのトラブルと常時背中合わせなのです。また、取引先の倒産等による売掛金の回収不能とも、背中合わせです。
筆者は前職では政府系金融機関で倒産審査マンとして働いていました。中小企業の倒産原因として無視できないのが「取引先の倒産」や「売上回収困難」です。商品を渡して売上として計上、現金化するのを待つばかりだったのが一転して現金は手に入らず商品も失うとなると、甚大な影響を受けざるを得ません。
リスクの例
例1)天変地異
最近に増えてきたのは天変地異です。以前は数年に一度、大型台風に見舞われ、時折大きな地震が襲ってくるという感じでした。しかし今は特に夏場、台風や線状降水帯により1シーズンに何度も大雨の被害が出ています。
これらにより生産設備や販売手段(店舗や倉庫、物流、ネットワーク)等の毀損という直接的な被害を受ける他、サプライチェーンの上下流にある企業の毀損による影響、あるいは顧客者や市場の喪失という間接的な影響を受ける可能性があります。
例2)新種のリスク
これらに加え、一昔前まで「そういうリスクも理論上はあるね。身に降りかかるとは思わないけれど」とされていたリスクが猛威を振るっています。新型コロナウイルス感染症の蔓延が企業活動や景気にこれほどの影響を与えるとは、2020年春時点で誰が予想したでしょうか?またロシアとウクライナという遠く離れた、一見すると日本とはあまり関係ありそうのない場所で生じた戦争が物資の不足や価格高騰などを引き起こし、企業に影響を与えています。
これら新種リスクで、事実上全ての日本企業が影響を受けているといっても過言ではありません。
例3)SNSからのリスク
また最近は、従業員による不適切な動画投稿で企業が打撃を受ける例が増えてきました。IT技術の高度化・ネットワークの浸透等で簡単に動画を撮影・アップロードできる環境下での「おふざけ」投稿ですが、影響は広範囲・深刻で企業にとっては笑いごとではありません。実際、それで倒産した企業もあります。企業は、未だかつてないリスクに晒されていると言えるでしょう。
リスクに対策/対処しない理由
では、これほどリスクが高まってきた中で、企業はどのような姿勢で迎えうっているのでしょうか?一般社団法人日本損害保険協会no
調査によると、調査対象となった60%以上が「最近リスクが増えていると思う」にも関わらず、36%以上が「特に対策/対処はしていない」と答えています。
引用元:一般社団法人日本損害保険協会”中小企業のリスク意識・対策実態調査2021調査結果報告書”「リスクや損害保険に対する考え」引用元:一般社団法人日本損害保険協会”中小企業のリスク意識・対策実態調査2021調査結果報告書”「対策状況」
対策/対処をしていない理由として「対策をする費用に余裕がない(21.0%)」や「具体的な対策方法が分からない(相談先が分からない)(13.5%)」をおさえて圧倒的多数が「特に理由はない(50.4%)」でした。
引用元:一般社団法人日本損害保険協会”中小企業のリスク意識・対策実態調査2021調査結果報告書”「非対策理由」
一方で回答者が実際にリスクによる被害を受けた割合は1/4以上(27.0%)、周囲で何らかの被害を受けたという話を見聞きした割合は4割以上(40.9%)でした。リスクによる被害の可能性を無視するのは非常に危険なのに、大半の企業が「なんとなく」無視している状態です。
引用元:一般社団法人日本損害保険協会”中小企業のリスク意識・対策実態調査2021調査結果報告書”「被害の発生有無(自社/他社)」
「知ること」が身を守る第一歩
この状況は、実は、筆者が時として直面している現象に通じるところがあります。筆者は今、コロナ禍などにより売上・利益が激減した中でコロナ特別融資を受けて企業生命を繋ぎ止めてきたが、業況低迷が続いたので債務超過に陥ってしまった企業などが事業改善に向けて努力する支援を行っています。
各企業・経営者は真剣に取り組んでおられますが、時折「こんなに努力しなくても、コロナ禍が収束して経済状況が元に戻れば、自然と事業は復活するのではないか?」という楽観的な推察に囚われそうになるようです。長年、倒産審査マンだった筆者からすると、これほど危険な楽観はありません。事業改善の手綱を緩めてしまうことも、世の中にあるその他の無数の落とし穴と同じく「リスク」と言えそうです。
では、それらにどうやって対策/対処すれば良いか?自らを救い出す力が得られるか?「敵を知り、己を知る」との金言がヒントになると思います。まず、世の中にあるリスク、自らに潜むリスクを「知る」ことから始めるのです。本連載は皆さんと、企業が認識し対策/対処すべきリスクについて平易な言葉で考えることを目指しています。会社を守る方法を、楽しく学んでいきましょう。
[simple-author-box]