既存顧客に係るリスクに対処する
前回、新規取引に関するリスクについて、特に回収面でのリスクについて考えてみました。これから取引を始めようとする先について「商品を引き渡したにもかかわらず、相手方から代金が支払われない」というリスクをできるだけ軽減する方法です。今回は、既存顧客に係る同様のリスクへの対処法を考えてみます。
コロナ禍やウクライナ・ロシア戦争などによる物価高騰などにより我が社が影響を受けているのと同じように、取引先も影響を受けています。その中には我が社以上に影響を受けていたり、もともと企業体力が脆弱だった、あるいは他の取引先の不調の影響を受けるなどしている企業があるでしょう。そのような企業をいち早く見つけ、損害を防ぐにはどうすれば良いでしょうか。
一般的・自社で得られる情報の利用
このような時期、既存取引先であっても業況や信用状態について気になるところですが、全ての取引先に対して費用のかかる調査等を行うことはできないでしょう。まず一般的な情報や、自社で得られる情報を活用しましょう。一般的情報の中でも代表的なのは業界動向です。例えば日本銀行が発表している「地域経済報告(さくらレポート)」で、各地域の全体感だけでなく需要項目別動向や生産、雇用・所得動向、物価、企業倒産、金融情勢などの金融経済動向を確認できます。
※地域経済報告(さくらレポート):https://www.boj.or.jp/research/brp/rer/index.htm
また自社内(あるいは同業者での情報網等から)の情報を有効利用できます。「顧客企業(企業A)が、企業Bへの売掛金回収ができなかったため不払いを発生させた」等の情報が入ったら、企業Aの取引先企業はもちろん、企業Bの取引先企業についても当社の取引先となっていないかどうかを確認し、信用不安等が発生していないか調査を行うことでリスク回避できるかもしれません。
このような情報が入手できたら、時には個別に対応することもポイントになります。例えば不調の可能性が高い業種や、個別に信用不安が疑われる企業Aあるいは企業Bの取引先の中に自社の取引先(企業C)があれば、訪問して業況や、信用破綻等に陥った取引先からの影響等を直接にヒアリングするのです。ヒアリングは難しい場合でも、例えば近隣の別会社訪問時に車の中から企業Cの様子を確認することで、不穏な動きが察知できるかも知れません。
顧客信用力調査
一般的情報あるいは社内情報等により企業Cのような「あの会社は危ないかもしれない」と分かった先について、大口の売掛金や継続取引がある場合には、費用をかけて調査機関を利用してクレジットチェックや信用調査などを行なってもらうのが賢明かもしれません。最近では一般ユーザー等が取引先企業について信用状況や評判等をインターネット上で発信している場合があり、これら情報を網羅・検証して情報提供してくれる信用調査会社もあるので利用できます。調査機関や信用調査会社と契約して継続的に情報提供を受けることで、危ない会社に気が付かないリスクを最低限に抑えることができると考えられます。
対策①「与信管理」
情報収集ができたらなら、それを与信管理に反映することも大切です。企業Cのような先に対して、売掛での取引上限額を設定、あるいは引き下げるなどの措置を取るのが代表的です。これまで売掛取引で比較的長めの期日を許していた場合には、期日を短めにする、あるいは売掛は認めず即金を条件とすることも考えられます。与信条件を満たす場合であっても近日中に信用状態を再確認する手順とすることもあるでしょう。
また与信時の契約を見直すこともできます。支払期限や違反時の罰則、あるいは自社状況の報告等義務(例:取引先が倒産等した場合には報告・協議する)などが曖昧な場合には、明記できるでしょう。
対策②「債権管理」
また債権管理に反映することもできます。売掛取引を行ったのに社内事務が遅れたため請求書の発行が遅れる事態が頻繁に発生している状況では適切な債権管理は不可能なので、適時発行を徹底します。ある会社では企業Cに該当する先には請求書発行時、郵送が届いているかを先方に確認することで管理を強化しています。売掛金が期日に落ち込んでいるか、今までは例えば毎月20日を期日としていても月末にしか確認していなかったところ、企業Cに該当する先の場合には翌日に記帳・確認することで、万一不払いがあった場合の初動が遅れないようにしている会社もあります。
以上の管理を専担部門(リスク管理部門)に委ねることで徹底している会社もあります。債権管理を営業マンに任せると片手間になってしまう可能性があるので、企業Cに該当する先の債権管理はリスク管理部門に任すことで、管理の緩さが実損に繋がる可能性を減らすのです。リスク管理部門ではリスク管理実務以外に、専門知識を持った人材の養成や社内への啓もう、弁護士との連携などを行うことで、より効果的なリスク管理・対策に繋げることもできるでしょう。
今のような事業環境ではリスク管理が欠かせません。一方で、既存取引先全てに対して疑心暗鬼になるのは、あまり良い対応とは言えません。自社を消耗させ、取引先との関係が悪化する可能性があるからです。今回ご提案した方法などを参考に、我が社を守る効果的なリスク管理策・体制を築きあげることをお勧めします。
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アラームボックスのブログ「よくわかる与信管理シリーズ」では与信管理の基本から詳細な分析手法までを詳しく、わかりやすくまとめています。ぜひご一読いただき、取引に係るリスクとその対処法についてご確認ください。