【企業経営とリスクマネジメント】新規取引に係るリスクに対処する

新規取引に係るリスクに対処する

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新型コロナウイルス感染症やウクライナ・ロシア戦争、円安などの影響によりパッとしない景気が続いています。このような状況では、従前の顧客への売上が思うように伸びないため、新規顧客の開拓が必要だと感じることが多いでしょう。今回は新規取引に関するリスクについて考えてみたいと思います。

新規取引のリスク

新規先に販売する場合の一番のリスクは回収に関するリスク、端的にいえば「商品を引き渡したにもかかわらず、相手方から代金が支払われない」というリスクです。リスクに対処しようとする場合、その発生原因を分類し、それぞれに対応していくという方向性を探ることが多いと思います。

回収に関するリスクについて分類すると、「相手方が、支払時期よりも前に受け取れたはずの売掛金が回収できず、当社に支払うべきキャッシュが枯渇していた」という場合もあれば、「過去に仕入先に不義理をした経歴があり、そこから仕入れられなくなっていた。このため当社から仕入れたが、やはり支払い能力が不足していた」という場合もあります。

「最初から、商品をだまし取る詐欺目的の取引だった」場合もあれば、「契約をし商品を引き渡した時には順調だったが、代金を支払うべきタイミングでトラブルが生じた」という場合もあります。このように分類しても、各々に関する防御策を執っていくのは難しいと感じられます。

では、どうしたら良いのか?実は金融機関は新規取引でリスクに直面することが多く、それへの対処について長年の蓄積があるので、そこから学ぶことができると考えられます。

新規取引に慎重な金融機関

皆さんは「金融機関は、自分が営業して融資を提案する時に比べて、顧客側から融資を申し込んだ場合には慎重になる場合が多い」とお感じになったことはないでしょうか。一概には言えませんが、その感想は的を射ています。

金融機関が自分から融資を営業するのは、リスクについて検討済みで、問題がないと判断した先に限られています。一方で、顧客側から今まで取引のない金融機関に融資を申し込むとは、お金を調達しなければならない場面で、従来から取引のある金融機関に申し込みができない事情があると考えられます。

従来の金融機関から「あなたはとても良いお客様なので出来るだけ対応したいのですが、我が金融機関のルールではそろそろ上限なので、これを機会に別の金融機関から融資を受けたらどうですか?あなたは優良な企業なので、きっと取引できますよ」と言われたから持ち込まれた可能性もありますが、従来からの金融機関先に断られた可能性も否定できないので、新規取引には慎重になるのです。

金融機関の知恵

では、このような事態に金融機関はどのように対処しているのか。代表的なのは調査と段階的な取引拡大です。

調査には、外部を利用した調査と内部による調査の2つを並行して行います。金融機関は金融機関同士で貸倒等に係る情報を共有している他、調査機関や信用情報を提供する機関等からの情報をもとに申込者をチェックしています。また、金融機関は内部資源を活用して情報収集しています。経営者と面談したり、担当者が現地に赴いて事業所を観察するなどしているのです。

経営方針や今後の取組等をすらすらと答えられない経営者が、事業に成功して順調に返済できると考えるのは難しいでしょう。また店舗が清潔でなかったり、従業員が訓練されておらず言動が粗野に感じられる等の状況があれば、経営者がどんなに素晴らしい理念等を語っていたとしても、それが浸透して実現する、事業が上手くいく可能性は差し引いて考えざるを得ないと判断します。

また取引可能と判断したとしても、金融機関は新規先には取引額の制限を設けており、いきなり多額の融資をすることはありません。比較的少額に抑えた融資を実行、それが誠実に返済される、という実績を積み重ね、信頼を積み重ねた相手に、だんだんと与信枠を拡大していくのです。

今だからこその慎重な姿

金融機関のこのような取引スタンスは、通常の会社が新規先と取引を開始し継続していく上で参考になると思われます。「そんな面倒なことは、していられないよ。費用をかけて外部機関からの報告を入手し、加えて内部で手間をかけて調査するなんて、とんでもない。取引を段階的に拡大していくのも時間の無駄だ。今は、とにも角にも売上を伸ばすべき時期なのだから」との声があるかもしれません。

しかしそれは、目的と手段を取り違えています。「売上を伸ばすこと」が目的だったら、その達成と天秤をかけながら外部・内部による調査や段階的な取引拡大を省略できるかもしれません。しかし実際は、売上を伸ばすのはあくまでも手段で、目的は自社の利益を増やすことです。新規開拓しても結果的に売掛金を回収できず損をしてしまうなら本末転倒なので、外部・内部による調査や段階的な取引拡大という防御策を疎かにするのは勧められません。

景気が悪い中で業績を改善するため新規先を開拓・取引しなければならないという事情だからこそ、面倒な手間を惜しまず実行して優良な顧客を選別することが、自社を守り利益をあげていくという目的を実現できる道となります。

 

また弊社ブログ内の、よくわかる与信管理シリーズでは与信管理の基本から詳細な分析手法までを詳しく、わかりやすくまとめています。ぜひご一読いただき、取引に係るリスクとその対処法についてご確認ください。