【企業経営とリスクマネジメント】リスクに耐える計画を立てる

リスクに耐える計画を立てる

画像はイメージです。実際とは異なる場合があります。

計画を立てるリスクへの対処

新型コロナウイルス感染症の蔓延に加えてロシア・ウクライナ戦争そして歴史的な円安など、まさに波乱だった2022年が幕を閉じ、2023年を迎えました。毎年、年末には一年の総まとめをし、年始に一年の計を立てる方もいらっしゃると思います。私も、その一人です。

一方で「計画なんて立てない」という意見の方もおられます。詳しくお話をお聞きすると「計画を立てても、その通りになったことはないから」という答えが返ってくることが多いのですが、「予定通りに進捗していないことに気付けるのが、計画を立てる醍醐味です」とお返事しています。一生懸命頑張っている結果が受け入れ可能なものなのか否かが判明するのは全てが終わった時、というのでは遅すぎです。可能な限り早めに察知して軌道修正できるようになるためには、最初に計画がなければなりません。さもなければ、1年間が経過したところで、企業でも、個人でも「こんな結果は到底、受け入れられない。どうしてもっと早く手を打てなかったのか?」と臍を噛む可能性があります。

一方で「計画を立てると思考や行動が硬直化してしまい、突発的な事象が生じた時に対応できない。今やそんなことばかりなので、計画を立てない方が良い」との意見には、もっともだと感じることがあります。今回は、「計画を立てるリスクへの対処」について考えてみます。

硬直化した計画の甚大な弊害

2020年初からコロナ禍が始まり、3月には休校や集会・通勤の自粛等が要請されるようになり、日本経済は大きな痛手を被りました。その中で「立ててしまった計画を変更できず、その通りに実施してしまったので大きな損失を出してしまった」という話を時折、耳にします。ある企業は店舗をニューリアルしましたが、テレワークが推進され顧客が来なかったのでしばらくの間、全く機能しませんでした。売上・利益が減少する一方で固定費が増大、返済負担がのしかかりダブルパンチ・トリプルパンチの状況に苦しめられたのです。

計画は役に立たないのか?

このような事例を聞くと、計画否定派の方々から「やはり計画は弊害が多い。上の例で挙げた企業は、計画さえ立てなかったら問題には遭遇しなかった」との声が聞こえてきそうです。しかし、そうでしょうか?

この会社は計画を実行したことにより甚大な被害を被ってしまいましたが、それはコロナ禍などの予見できなかった突発的事項が生じたからです。それがなければ店舗のニューリアルは合理的な判断でした。古びた店舗だったことによる脆弱な集客力、旧弊な設備・機器を使い続けなければならないことによる非効率、そして従業員のモチベーション低迷に対処する根本的解決策と期待されました。そして店舗のニューリアルは、計画なしには実現しません。

以上の状況などを踏まえると、計画を立てる是非について以下のように整理できると思います。

計画あり 計画なし
突発事項なし ×
突発事項あり ?(×~△)

計画を立てて実行し、突発事項がなくて予定通りの成果が得られることは、「〇」と評価できるでしょう。計画を立てず、突発事項がなければ、計画を立てて行動したら得られるはずの成果が得られないので「×」と評価することになります。突発事項があった場合に、計画がなければ、計画を立てて実行してしまったほどの悪影響は受けませんが、さりとて最善の策を採れるとも限りません。これを「△」と評価しましょう。問題は突発事項があり、計画があった場合です。先ほどの例のように「立てた計画に固執してしまったおかげで甚大な損害を被った」という事象が生じたら「×」と評価せざるを得ませんが、計画がなかった場合と同程度に柔軟な対応ができるなら「△」と評価できることになります。

この整理表から、計画を立てた場合であっても突発事項に上手く対応できる工夫があれば、計画を立てない場合より評価が低くなることはあり得ないことが分かります。人類の長い歴史の中、「大きな・困難な取組を行う場合には計画立てて行う」ことが推奨されてきたのは、このような事情からだと考えられます。

リスクに耐える計画を立てるための工夫

では、突発的な現象が生じた場合に計画が障害にならないようにする工夫として、何ができるか?「PDCAサイクル(Plan:計画、Do:実行、Check:測定・評価、Action:対策・改善)を回すよう計画に盛り込むことか?」確かに計画(P)は改善プロセスであるPDCAの冒頭にあり、これがなければ良い仕事・良い成果を目指すことは困難です。人類の長い歴史の中で大きな・困難な取組を行う場合には計画立てて行うことが推奨されてきたのは、PDCAサイクルを上手く回すためといっても過言ではないと考えられます。

一方で計画が想定していなかった突発的事象が生じるとPDCAサイクルで改善することはできません。この場合にはPDCAから素早く離れ、OODA(Observe:観察、Orient:方向付け、Decide:判断、Action:行動)サイクルでもって状況判断して最善の策を探っていくプロセスに移行することが勧められます。PDCAによる「今までのパラダイムを前提として、改善を目指していく」のではなく、「今までのパラダイムを捨てて現在のパラダイムを冷静に見極め、最善策を選ぶ」のです。

先ほどお話しした「突発事項が生じた場合に、計画を立てた場合であっても上手く対応できる工夫」として、突発的事項が生じたらPDCAサイクルからOODAサイクルに移行する道筋を計画に予め描いておくことが考えられます。何をきっかけに(取引先の倒産等の緊急事態、景気の深刻な低迷、売上・利益などパフォーマンス数値・指標の大幅な低下等)、何をするか(調査・分析・評価・意思決定の見直し・アクションプログラムの変更・実施等)を書き込んでおくのです。会社のように意思決定に複数人が関与する場合には、誰が何を行うか(予め定めたメンバーによる会議を招集する(定足数・議決方法等を含む))を決めておくことも必要でしょう。

計画について「リスクへの対応が疎かになる」などネガティヴな意見を聞くことがありますが、それは計画そのものの欠点ではない場合が多いのです。適切な工夫を加えることにより、リスク発生時にも役立つ(少なくとも対応の邪魔をするなどの弊害が起きない)計画とすることは可能だと考えられます。年始に計画を立てる時に、頭の片隅に置かれるのは如何でしょうか?

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