コロナリスクに立ち向かう
ここ数年、企業にとって最も脅威だったリスクは新型コロナウイルス感染症の蔓延でしょう。2020年の初頭は「中国で蔓延しているらしい」程度の印象で、企業活動ひいては経済に影響を与えるとは考えられていませんでした。
しかし3月に学校の休校や通勤の自粛が要請されると事態は一変、ほとんど全ての企業が何らかの影響を受けるようになり、飲食業・観光業など外出や旅行が前提となる企業や、世界的な半導体不足や部資材の不足・価格高騰などで自動車産業をはじめとした多くの企業が甚大な影響を受けるようになったのです。
リスクマネジメントに関する教科書を紐解くと疫病もリスク要因として挙げられていますが、新型コロナウイルス感染症は、多くの人がそれを実感した初めてのケースと思われます。
リスクの対処方法
では、リスクにはどのように対処すれば良いのでしょうか?例えばあるリスクマネジメントの教科書には「回避」、「保有」、「転嫁」及び「除去」の4つの対応方法があると示されています(※1)。
参照:※1 亀井利明編(1988)『現代リスクマネジメント事典』同文館出版P.96
また別の資料は、リスクコントロールとして「回避」、「損失防止」、「損失軽減」、「分離・分散」を、リスクファイナンシングとして「保険」と「保有」を挙げています(※2)。
資料:リスク管理・内部統制に関する研究会「リスク新時代の内部統制」から中小企業庁作成
※2中小企業白書(2016年版) https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/H28/h28/html/b2_4_1_4.html
更には、リスクコントロールとして「回避」、「リスク・テイク又は増加」、「リスク源の除去」、「起こりやすさの変更」、「結果の変更」を、リスクファイナンシングとして「リスクの共有」と「リスクの保有」を挙げる資料もあります(※3)。
※3MS&ADインシュアランスグループ株式会社インターリスク総研 https://www.ms-ins.com/pdf/business/rm/rmguide.pdf
これら資料を見ると「リスク対処法」の類型化は唯一無二ではなさそうだと気が付きます(今回のブログでは、これらリスク対処方法についての解説は省略します。各々について、個別のケース等に基づいて今後に解説することはあり得ます)。
例えば「リスクをどう捉えるかにより、対処法が変わる可能性がある」と言えそうです。あるリスクへの対処法を考える場合に、それを事業上のリスクと考えるか、生活上のリスクと考えるのかによって対処法が変わる可能性があるのです。
また、「知られた対処法の存在が関係する可能性がある」とも言えそうです。例えばあるリスクに対応する保険商品がなければ保険は対処法として挙げられないが、開発されると対処法として挙げられるという意味です。
このように「リスクへの対処」は一筋縄ではいきません。どんなリスクかだけでなく、どんな影響を受けるか、その大きさは如何かなどなどによって違いが出てきます。それが少なからぬ人・企業がリスクマネジメントに苦手意識を持つ理由の一つになっているとも考えられます。
コロナリスクへの対処方法
ここで新型コロナウイルス感染症の蔓延というリスクについて考えると、「回避」や「除去」、「損失防止」あるいは「損失軽減」などのリスクコントロールは現実的ではなさそうですし、リスクファイナンシングとしての「保険」も普段から付保する動機を持てる企業は限られると考えられます。では、新型コロナウイルス感染症というリスクには対処・備えはできないのでしょうか?
「リスクへの対処法は一筋縄ではいかない」という原則が、逆に使えるかもしれません。先ほど同様のリスクでも事業上のリスクとして考えるか、生活上のリスクとして考えるかによって対処法が変わる可能性があると申しました。コロナ禍を事業上のリスクとして捉えると一般的な対応策は保険等も含めて存在しませんが、生活上のリスクと捉えると眺めが違うと思います。
多くの人が「規則正しい生活を送って体力維持・向上を目指す。感染の恐れのある人・集団には寄り付かない」と答えるでしょう。企業でもこの発想法が使えないだろうかと、考えることができます。普段から売上・利益率の確保に細心の注意を払うと共に、主要な顧客や取引先等がコロナ禍で大きく影響を受けたなら、あまり影響を受けない新規顧客・取引先等の開拓に努めるアプローチです。
「それは、難しいな。」確かにそうですが、実践している企業もあります。ある業歴長い和風料理店は、コロナ禍の最中に惣菜店に事業再構築しました。「コロナ禍で外食を減らした人たちは何をしているか?家で食事をしているなら、その人たちに利用される業態に変われば良い」と考えたのです。
早めの決断により昨年中に店舗改装を終え、今年は試行錯誤しながら売上を伸ばしています。リスク対策を柔軟に捉え、生活上の知恵をビジネスに応用した合理的な取組で対応した例と言えるでしょう。リスク予防・対処を考える場合に、このように「柔軟な発想」もポイントになると考えられます。
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