【企業経営とリスクマネジメント】コンプライアンス違反倒産から身を守る方法

コンプライアンス違反倒産から身を守る方法

画像はイメージです。実際とは異なる場合があります。

大手中古車販売ビックモーター社による車両保険金不正受給事件は2023年に起きたビジネス醜聞として後代まで記憶に留められるでしょう。それほどインパクトの大きな事件でした。

心に留めておきたいこと

そしてもう一つ、皆さんの記憶に留めて頂きたいことがあります。この事件がなぜ起きたのかについてです。もちろん推察ですが、この醜聞が発生した根本原因は、経営者が「コンプライアンス違反をするかどうかは経営問題だ。するかしないか、業況などを鑑みながら判断すべき時がある」と考えていたことにあると考えられます。

こう考えることで、コンプライアンス違反倒産を避ける、つまり自社としてコンプライアンス違反倒産を発生させない、あるいは取引先のコンプライアンス違反倒産に巻き込まれるのを回避するヒントが得られます。

危険な「他人事意識」

経営者の皆さんとお話して驚くことがありました。ビックモーター社のコンプライアンス違反について一通り話をして「あんな風になってはいけないね」と区切りがついた後に運送業の2024年問題に話題が変わると「しばらくは過積載して切り抜けるのは仕方ない」という発言が飛び出したのです。

コロナ特別融資等の返済が苦しく借換もままならない企業が「コロナ借換保証の要件として売上減少要件があり、一方で企業の持続性も問われるとするなら、売上を過少・利益を過大に計上する会計操作もやむをえない」という発言を耳にしたこともあります。

よく聞いていると、そのような発言をする経営者は、経営で使える選択肢の中にコンプライアンス違反をすることが含まれると考えているようです。もちろん普段使う選択肢ではありませんが「禁じ手も、手のうち」程度には考えているのだと思われます。

コンプライアンス違反は「手のうち」ではない

しかし会社の存続を真摯に願うなら、コンプライアンス違反を「手のうち」と考えてはなりません。そう言うと「苦しい現状にある当社が高い確率で遭遇するだろう危機を回避するため、万が一の割合で発覚する手段を手放す訳にはいかない」という反論がありそうですが、これには2つのアプローチで反論できます。

苦しい時ほど発覚する

第1は、会社が苦しい時だからこそ発覚する可能性が高まることです。最近、新聞などでコンプライアンス違反倒産に係る記事を見かけることが多くなりました。粉飾決算が露呈して金融支援が受けられなくなる、あるいは受けていた支援を撤回されることが原因で倒産する企業が増えているのです。

企業倒産の審査、そして融資(信用保証)審査を行った者からすると「売上を過少・利益を過大に計上する会計操作」を見破るのはそんなに難しいことではありません。万一そのタイミングで発覚しなくても、その疑いをりん議書に記入しておけば次の申込み時に提出された実績数字をチェックすれば簡単に見つけることができます。

苦しい時ほど堪える

第2は、発覚時のペナルティによるダメージが健全な時に比べて数段厳しくなるからです。コンプライアンス違反をしたことで融資等が得られなくなったとしても、未来永劫融資が受けられなくなる訳ではないでしょう。

反省し、是正し、それを一定期間継続することで信頼を回復して再び支援が得られるようになる可能性があります。但しそれは、数日や数週間という時間軸ではありません。少なくても数か月、多くの場合数年という時間軸です。

企業が好調、少なくとも平常な状況であるならこの期間を持ち堪えることができるでしょうけれど、企業が不調な状況では、そのような長い期間にわたって支援が受けられないと、企業の存続は危うくなるでしょう。

自社のコンプライアンス違反倒産を避けるために

以上から、自社がコンプライアンス違反で倒産することを防止する出発点は「苦しい時は奥の手としてコンプライアンス違反が使える」という概念そのものを捨て去ることです。

経営者ももちろんですが、従業員の一人一人に危険な概念を捨て去ってもらい、「会社を持続させ、繁栄させるためにはコンプライアンス順守で名を馳せる方が得策」というイメージを持つことが大切です。そして、以下の具体策を執っていきましょう。

具体策1:規定化

第1は、以上のイメージを社内規定としてまとめることです。法律などの公的規制や強制力のある同業者の規則等を遵守し、倫理的にも問題ない言動を行う旨を明確に示すのです。それを具体化する一連の方針や基準、プロセス・手順、教育・トレーニング、監視・罰則などを定めたコンプライアンスプログラムを策定しましょう。

コンプライアンスが問題になることが多く、発生・発覚等すると会社の存立に大きく影響する場合などでは、コンプライアンスプログラム策定から以下のプロセス実施に至るまで、コンプライアンスに強い弁護士等のアドバイスを受けるのが有効だと考えられます。

具体策2:従業員への浸透

第2は、規定を従業員に浸透させていきます。刷り込み教育が威力を発揮します。今までコンプライアンス順守に無関心な経営者あるいは職場であれば、熱心な教え方で評判の講師を探して受講することをお勧めします。

最初は四半期など短期間にリピート受講するのが良いでしょう。法律や業界規則等だけでなく、職場で起きがちな典型例を挙げてもらい、それを発見した時に取るべき行動等を具体的に教える内容も含めておきましょう。

具体策3:体制整備

第3として体制整備が挙げられます。コンプライアンスプログラムの実施を所管する担当部門を明確に定め、モニタリングを行わせましょう。従業員が問題を発見した場合に報告等させる窓口を設けたり、現場に立ち入り調査する内部監査を実施したりします。必要に応じて取引先や顧客などから意見が聞けるかもしれません。

コンプライアンス上の問題が発生した場合には迅速に対応しましょう。関係者の処分の他、原因究明して規則や罰則、組織体制等の見直し等にまで昇華するのです。問題発生は避けたい事態ですが、再発を防ぐための対策を考え実施するまたとないきっかけとなります。

具体策4:組織文化に高める取組

第4に、組織文化にまで高めましょう。ある企業はコンプライアンス順守、それもギリギリではなく業界でも尊敬を集められる高いレベルでの実現を会社の理念に盛り込みました。また、コンプライアンスに関してアセスメントを定期的に実施して公開、時には優良者や貢献者を顕彰するなどして、従業員が常に意識するよう工夫しています。

イベント等でも日頃のコンプライアンス順守の点でも経営陣が率先・リーダーシップを発揮することが、良好な組織文化の醸成に役立ちます。

他社のコンプライアンス違反倒産の被害を免れるために

次に、コンプライアンス違反で倒産等する他社から被害を受けないよう防止する方法を考えます。何はともあれアンテナを高く張って情報収集することがポイントです。

例えば相手方が運送事業者なら、車庫を出る車が過積載であることに気が付くかもしれません。タイヤを見ると、雨や急ブレーキ時に安全を確保できないほど擦り減っているかどうかが分かります。ドライバーが「過積載や貨物の落下などを起こしたが見つからずに済んだ」と誇らしげに語っていると、それは危険な会社です。

一方で「店舗や事務所、工場等が綺麗に整理整頓されているか」だけで見分けられるものではないと留意してください。今、コンプライアンス問題を検討するきっかけとなったビックモーター社は、店舗や事務所、工場等が綺麗に整理整頓されていたようですが、片やゴルフボールを打ち付けて車両をわざと損傷させるような不正行為を働いていました。

そういう意味で、見た目だけでなくもう一歩踏み込んで、アンテナを高くするのです。

自社が取り組むからこそ異臭に気が付く

「それではコンプライアンス問題を起こしやすい企業を見分けるのは難しい。どうしようもないのか?」一つ、方法があります。自社がコンプライアンス順守に力を入れ、一連の取組を行い、それを組織文化にまで高めていれば、整理整頓等を形だけ行いながら実はコンプライアンス問題には無頓着あるいは違反もやむなしという意識が蔓延していることに気付ける可能性が高まります。

従業員の会話や何気ない行動で、あるいは稼働している車両や廃棄されているゴミの様子などで、コンプライアンス問題がないがしろにされていると暗示する「異臭」に気が付くことができるのです。

最近ではSNSで発信されている書き込み等から、「こんなルーズな書き込みがあるとはおかしいぞ。コンプライアンスに鈍感なのかもしれない」と察知できるかも知れません。是非、自らがコンプライアンス順守を率先することで、危ない会社を感じ取る嗅覚を身に着けて下さい。