【企業経営とリスクマネジメント】後継者難倒産リスクから自社を守る

後継者難倒産リスクから自社を守る

画像はイメージです。実際とは異なる場合があります。

今、「後継者難倒産」というリスクが静かに進行しています。事業承継を真剣に考えるべきタイミングで人や機械設備等の年齢が上昇、更には財務体質が悪化してしまうと、後継者候補にとって前向きになりにくく、承継を断念させる原因になっていると考えられます。

そのせいか調査によると今、後継者難倒産が増えているそうです。前回は「後継者難倒産リスクに対処する」にて、このリスクに直面しつつある企業の見分け方を考えましたが、今回は自社がこのリスクに打ち負けてしまわない方法を考えてみます。

「後継者難倒産」を詳しく考える

まず「後継者難倒産」を詳しく考えてみましょう。「考えるまでもない。後継者が見当たらなくて倒産したという意味だ」その通りですが、「後継者が見当たらない」という事象が不可避的に倒産に繋がる訳ではありません。そこが資金不足と違うところです。経営者を勤める人物が引退あるいは死亡等した場合の対応方法は以下が考えられ、いずれも実現できなかった場合に後継者難倒産に至ると考えられます。

  • ・息子、娘、その他の親族に承継
  • ・従業員に承継
  • ・第3者に承継(斯業で創業したい人など)
  • ・会社売却(M&A)
  • ・清算(計画的廃業)

以上のように考えると、後継者難倒産とは「後継者不在による、やむを得ない現象」というよりも「選択肢は承継以外に様々あり、積極的に計画・実施していれば回避できた可能性もあり得る現象」といえるのではないかと感じます

取引先や金融機関に債務を負ったまま調整もせず倒産してしまうと、多くの場合に期限の利益を失って即時支払いを求められ、応えられない場合には破産等に追い込まれる場合があります。今までお世話になった顧客や取引先、従業員等に多大な迷惑を及ぼして晩節を汚すことにもなりますから、倒産は是非とも回避したいものです。

事業承継の検討は危険か

「しかし難しいのだ。我が社が事業承継を考えていると分かると、取引先などが動揺する可能性がある。中には、我が社との取引に消極的になる可能性さえ、ある。こう考えると、なかなか積極的に取り組めないのだ。」確かに、事業承継を検討しているとの情報が耳に入ると取引先が警戒する状況が過去にはあったと聞いています。

しかし今は、そのような時代ではありません。逆に後継者難倒産に、取引先も身構えている状況です。経営者が一定の年齢に達しているにもかかわらず検討・取組を始めていなければ『取引先として大丈夫だろうか』と不安視する風潮さえあります。必要ならば取引先の姿勢を伺いつつ是非、事業承継の取組を始めてください。

事業承継を学ぶ

「そうは言っても、何をどう準備すれば良いのか分からない。専門家に聞きたいのだが、誰かに相談すると、その人の良いように進められる可能性がある。例えば『承継者は今のところいないが、是非とも従業員の誰かに承継してもらいたい』と考えているのに、専門家の得意分野がM&Aで、そちらに誘導されてしまうことなどは避けたい。」そのお気持ちは理解できます。

医療でもコンサルティングでも「初期の見立ては自分で行って専門家に依頼する手順となっている。見立てが正しく、適切な専門家に依頼すれば問題ないが、間違っていると費用だけ嵩んで効果が得られない場合がある、時には問題が生じる場合がある」リスクがあります。肩から胸にかけて痛いので筋を傷めたか、骨でも折れたのではないかと整形外科の門を叩き、検査の結果「問題ない」と診断されたので気にしないでいたら、いつの間にか消化器の病気が悪化していたというような状況です。

同様のことが経営の場面でも生じ得ます。このような事態を避けるため、事業承継の取組ではご自分で学ぶことから始めることができます(他方で、例えば資金繰り破綻が近いと考えられる場合は一刻の猶予もないので、よろず支援拠点等に相談することをお勧めします)。

事業承継をどのように進めていくか?政府(中小企業庁)は「事業承継ガイドライン」を定めており、以下の標準的なステップを提案しています。過去の膨大な経験をもとに専門家がまとめたもので、参考となるでしょう。

  1. ステップ1:事業承継に向けた準備の必要性の認識
  2. ステップ2:経営状況・経営課題等の把握(見える化)
  3. ステップ3:事業承継に向けた経営改善(磨き上げ)
  4. ステップ4-1:事業承継計画の策定(親族内・従業員承継の場合)
  5. ステップ4-2:M&Aの工程の実施(社外 への引継ぎの場合)
  6. ステップ5:事業承継・M&Aの実行

事業承継ガイドラインには、上記5ステップを含む準備の進め方の他、事業承継の類型ごとの課題と対応策等の解説もあります。但しこの資料は専門家向けで難解な部分もありますから、市販の図書で学ぶことも可能です。最近に刊行された図書の多くは事業承継ガイドラインに準拠あるいは参照しているので、参考になるでしょう。

取組をスタートさせる

「学びから始めろと簡単に言うが、そのきっかけがなかなか掴めず、一歩が踏み出せないのだ。」実際筆者は、事業承継が上手くいかない最大の理由は、上手くスタートを切れないことが最大の原因ではないかと思っています。一方で、100年やそれ以上も事業を継続している企業では確実に手続きを始めています。コツは「何か条件が揃ったら始める」のではなく「機械的に始める」ことです。例えば経営者の年齢をベースに、以下のようにスタート時期を決められるかもしれません。

<① 40歳(例)になったら>

  • ・自分が経営者として引退する期限の目安を定める。
  • ・「つなぐノート(後述)」を入手し、読破し、ワークを全て行う。
  • ・承継候補者の有無を確認する。親族や従業員に候補者がいたら、承継に向けた準備(教育等を含む)について学び、引退期限までに終わらせる計画を立て、実行を始める。
  • ・承継候補者がいない場合には、会社売却(M&A)あるいは清算(計画的廃業)を行うことになると、心に留めておく。

<② 50歳(例)になったら>

  • ・経営者としての引退期限をより明確に定める。
  • ・承継候補者がいる場合には、①で定めた承継に向けた準備(教育等を含む)を適切に行ったかをチェックする。複数の候補者がいる場合は、選別時期や方法を明確に決めておく。教育等を含む準備で継続すべきものがあれば、継続して行う。
  • ・承継候補者がいない場合は、引退期限までに会社売却(M&A)あるいは清算(計画的廃業)を終わらせられるよう、取組スタート時期を決める。

<③ 55歳(引退予定時期を60歳と決めた場合の例)になったら>

  • ・60歳になった時に予定した方法で事業承継を完了できるよう①、②で定めた準備が進捗しているか確認、必要に応じて挽回の措置を執る。
  • ・引退後に行おうとすることを考え、必要に応じて準備を始める。

とにかく取組をスタートさせる

以上を見て「特定の時期になったら何かを行うよう提案しているが、具体的な内容が曖昧ではないか。それでは自分が何をすべきか、考えることから、あるいは考えるために準備することから始めなければならなくなってしまう。」その通りです。

事業承継の準備として行うべきことは企業によって異なります。企業が300万社あれば、300万通りあるといっても過言でないほどです。同じ会社でも、先代は先々代とは違った承継を行ったでしょう。当代は、以前の代とも異なった承継、あるいは他社とも異なった承継を行うことになります。マニュアル通りやって成功するものではありません。

このため一番肝心なのは、事業承継の取組を始めるタイミングを明確に定め、タイミングが来たらスタートを切ることです。その時に何をすれば良いのか?テキストとワーク記入帳を兼ねた手頃な資料があるので、それから始める方法をお勧めします。日本政策金融公庫が発行する「つなぐノート」です。

これを読破しワークをやり遂げると、事業承継準備として行うべきことが随分と見えてくると思います。どんな専門家に相談すれば良いのかも見えてくるかもしれません。「つなぐノート」に記載した事項をワンステップづつ取り組んでいくことにより、後継者難倒産リスクから自社を守る、確実な一歩を踏み出すことができます。