【企業経営とリスクマネジメント】後継者難倒産リスクに対処する

後継者難倒産リスクに対処する

画像はイメージです。実際とは異なる場合があります。

新型コロナウイルス感染症の蔓延がひと段落し経済活動が盛り返している中ですが、それは必ずしも「復旧:以前の状況に戻る」を意味しないことが明らかになってきました。テレワークの定着など事業環境面の変化もありますが、企業自身の変化もあって旧に復することができないのです。今回は、今静かに進行している「後継者難倒産」というリスクについて考えてみます。

後継者難倒産の例

先日、当サイトの企業ニュース欄に『秋田県能代市の老舗羊羹製造店「熊谷長栄堂」が閉店』という情報が掲載されました。情報を、ここに再掲します。

秋田県能代市にて東雲羊羹を製造する老舗羊羹製造店「熊谷長栄堂」が6月末を持って閉店することが明らかになりました。

同社は、1837年から東雲羊羹の製造を行っており、地元民から長年愛されてきました。しかし、2014年に7代目店主が亡くなったことで一時休業。2015年に業務を再開していましたが、2022年末に羊羹の製造方法を知る工場責任者が亡くなったことに加え、製造機械の故障も頻発。現店主の高齢化や後継者の問題もあり閉店する運びとなりました。

江戸期に事業を開始して業歴186年、製品も最高品質と認められインターネット上では手元にある最後の1本を「食べれないよ!(原文のまま)」との声が上がるほど愛顧されていた店舗が消え去ってしまうのは残念でなりません。ではなぜ熊谷長栄堂は閉店を余儀なくされたのでしょうか?主な要因として以下の3点が挙げられます。

  • ・現店主が高齢である中、後継者問題を抱えていた。
  • ・技術面での後継がなされていなかった。
  • ・製造機械の継続的利用も疑問視される状況だった。

これらから当社の閉店が「後継者難」を理由としていたことがわかります。

旧に復することができずに増加する後継者難倒産

現在、事業承継が困難なことによる倒産が増えていることに注目できます。2022年度の「後継者難」を理由とする倒産は調査開始以降最多で、5年度連続で前の年度を上回っているそうです*¹

「後継者難」倒産年度(4~3月)推移
*¹(株)東京商工リサーチ“2022年度「後継者難」倒産は409件 5年連続で増加、最多件数を更新”を筆者整理

今、このような現象が起きるのは何故か?コロナ禍による行動・事業活動制限やロシア・ウクライナ戦争などによる物資不足・価格高騰等で企業の財務体質が悪化してしまい、景気が回復しても「復旧」できないことが原因の一つと推察されます。

コロナ禍の開始から今に至る約3年間という時間の経過により、企業で働く人々が年齢を重ねただけでなく、機械設備等も陳腐化しました。そして3年にわたる不十分な事業活動により連続して赤字を発生させてしまった企業は、今までになく財務的に傷んだ状態になっています。

このため「経済活動が回復してきた、今こそ昔の勢いで事業を盛り返そう」と決意しても、思ったように活動できない現象が生じていると察せられます。今、日本企業の社長の平均年齢は60.4歳、70歳代以上の社長は全体の約35%を占めているとの統計があります*²。

事業承継を真剣に考えなければならなくなったタイミングで、人や機械設備等の年齢が上昇するだけでなく会社そのものの財務体質が悪化してしまうと、後継者候補にとって前向きになりにくく、承継を断念させる原因になっていると考えられます。
*²(株)帝国データバンク“社⻑の平均年齢は 60.4 歳過去最⾼を更新、50 歳以上が 8 割を占める 

後継者難倒産リスクのある企業を見分ける方法例

では、後継者難倒産する可能性がある企業を、どのように見分けることができるのか?いくつかポイントをまとめました。

第1は、職場にいる人々です。働いているのが高齢の経営者(夫婦)だけ、あるいはほぼ同年代の従業員がいるだけという企業は、後継者が決まっていない可能性があります。経営者が高齢でも計画的に事業承継手続きを進めていれば後継者難倒産の可能性は大きく軽減されますが、もし計画的に育成をしていれば職場を観察した時に後継者の存在に気が付かないということは少ないでしょう。企業現場の観察は非常に大切です。

第2は、企業の活気です。店舗であるならお客を呼び込み賑わっているかどうか、会社であれば営業マンなどが活発に活動しているかどうかをチェックします。2020年からのコロナ禍では行動制限等が要請され、日本中のほとんど全ての企業が活動レベルを最低限に抑えざるを得なくなっていたところ、今年春から新型コロナウイルス感染症が第5類相当となり、制約はなくなりました。このため多くの企業がこれまでを取り戻すために営業・事業活動に尽力しています。

それにも関わらずコロナ禍当時と同様の活動水準に甘んじている企業があるとすれば、それは何故か?「経営者が高齢」かつ「企業を引っ張る後継者もいない」ため、活気を取り戻すことができないのかもしれません。

第3は、職場の状況です。内装の破損や機械設備の故障等を長らく放置しているいるなら要注意です。もし「なぜ破損や故障を放置しているのか」を問うことができ、その答えが「修理するどころではない」との答えが返ってきたなら、資金繰りが厳しいのかもしれません。多くの企業が利益体質に戻るべく企業努力している中で、必要な措置を後回しにしている企業は取り残されるばかりです。

経営者もそれは分かっているでしょうから、それでも回復に必要な措置を後回しにする現象は会社の懐事情が厳しい状況の証左と見ることができます。

第4は、従業員の様子です。今まで元気で愛想が良かった従業員の表情が暗くなり、所作や言葉遣いが粗雑になるなどの現象が生じているのは、従業員が会社の厳しい状況を察しているからかもしれません。従業員の態度に問題があっても経営者はその理由を知っているので、効果的にマネジメントできていない状況と考えられます。さらに進んで従業員が頻繁に退職するようになり補充も満足にできていない状況なら、警戒度を高める必要があると考えられます

第5は、事業戦略です。市場における世代交代や嗜好の変化、あるいはテレワークの浸透など事業環境の変化等により企業・製品の市場競争力が低下しているにもかかわらず何の手立てを打っていないのは、後継者難倒産が見えてきているからかもしれません。

「いや、当社は古くから受け継いだ伝統を守っているだけだ」と言われるかもしれませんが、数百年の伝統を持ち、以前からの製品製造を続けながらも発展している企業の経営者は「古い伝統を守るためにも、革新が必要なのです」と言って効果的な事業戦略を絶えず模索し、ブラッシュアップしています。「儲かる企業になるための努力」を尽くせない企業には、後継者難倒産が忍び寄っていると警戒が必要です。

まとめ

リスク管理のポイントの一つに「盲点への対処」が挙げられます。つまり、目では見ているのにリスクとして認識できていない現象があり得ると認識し、そうならないよう常に意識するのです。「長らく良好な取引を続けていた先こそ、後継者難に陥っている可能性がある。今後も信頼できるのか、問う必要がある」という当たり前のことに気付かず、警戒を怠ってしまうと、大きなトラブルに巻き込まれる可能性があります。アンテナを高く立てて情報収集し、リスクを分析しましょう。

遠隔地にあって自社だけでは情報収集できない企業については、SNSで発信されている観察をまとめて提供してくれるリスク情報サイトを活用できるかもしれません。まだまだ厳しさが続く事業環境の中で生き残りをかけるなら、後継者難倒産リスクにも配慮と対応が必要です。