売掛金や手形、貸付金などの債権が、取引先の倒産などによって回収できなくなってしまうことがあります。 このような事態を防ぐために、企業としてできることを解説します。
目次
貸倒れとは
貸倒れは「焦付き」とも言います。売掛金や未収入金、貸付金などの債権が取引先の経営悪化や倒産などで回収不能となることを言います。
貸倒金(貸倒損失)とは
取引先の倒産などで回収できなくなった(貸倒れた)損失は、「貸倒金(貸倒損失)」として経費計上することができます。
損益計算書での貸倒損失の表示区分は、回収できない債権が営業債権(売掛金や受取手形)の場合は「販売費及び一般管理費」、 営業債権でない(貸付金など)場合は「営業外費用」として表示します。
ただし、どの時点で「回収不能になったか」の判断は難しいので、倒産せず回収できない場合などは慎重に判断する必要があります。法律上の判断では下記の通りとなります。
法律上の貸倒
法人の有する金銭債権について次に掲げる事実が発生した場合には、その金銭債権の額のうち次に掲げる金額は、その事実の発生した日の属する事業年度において貸倒れとして損金の額に算入する。
- 更生計画認可の決定又は再生計画認可の決定があった場合において、これらの決定により切り捨てられることとなった部分の金額
- 特別清算に係る協定の認可の決定があった場合において、この決定により切り捨てられることとなった部分の金額
- 法令の規定による整理手続によらない関係者の協議決定で次に掲げるものにより切り捨てられることとなった部分の金額
債権者集会の協議決定で合理的な基準により債務者の負債整理を定めているもの
行政機関又は金融機関その他の第三者のあっせんによる当事者間の協議により締結された契約でその内容がイに準ずるもの - 債務者の債務超過の状態が相当期間継続し、その金銭債権の弁済を受けることができないと認められる場合において、その債務者に対し書面により明らかにされた債務免除額
事実上の貸倒
法人の有する金銭債権につき、その債務者の資産状況、支払能力等からみてその全額が回収できないことが明らかになった場合には、その明らかになった事業年度において貸倒れとして損金経理をすることができる。この場合において、当該金銭債権について担保物があるときは、その担保物を処分した後でなければ貸倒れとして損金経理をすることはできないものとする。保証債務は、現実にこれを履行した後でなければ貸倒れの対象にすることはできないことに留意する。
形式上の貸倒
債務者について次に掲げる事実が発生した場合には、その債務者に対して有する売掛債権(売掛金、未収請負金その他これらに準ずる債権をいい、貸付金その他これに準ずる債権を含まない。以下9-6-3において同じ。)について法人が当該売掛債権の額から備忘価額を控除した残額を貸倒れとして損金経理をしたときは、これを認める。
- 債務者との取引を停止した時(最後の弁済期又は最後の弁済の時が当該停止をした時以後である場合には、これらのうち最も遅い時)以後1年以上経過した場合(当該売掛債権について担保物のある場合を除く)。この取引の停止は、継続的な取引を行っていた債務者につきその資産状況、支払能力等が悪化したためその後の取引を停止するに至った場合をいうのであるから、例えば不動産取引のようにたまたま取引を行った債務者に対して有する当該取引に係る売掛債権については、この取扱いの適用はない。
- 法人が同一地域の債務者について有する当該売掛債権の総額がその取立てのために要する旅費その他の費用に満たない場合において、当該債務者に対し支払を督促したにもかかわらず弁済がないとき
(法人税基本通達9-6-1、9-6-2、9-6-3参照)
貸倒引当金とは
貸倒損失によるリスクに備え、あらかじめ損失になるかもしれない金額を計上した引当金のことを「貸倒引当金」といいます。
「貸倒引当金」の損金算入は資本金の額などが1億円以下である中小企業や銀行、保険会社などに限って認められており、 「貸倒引当金」が認めれれる法人であっても、どのような場合に計上できるかは別途要件が定められています。
貸倒れの原因
企業倒産のおもな原因は経営内容の悪化(販売不振)だとされていますが(※1)、では貸倒れを引き起こす原因は何でしょうか。
企業の倒産が貸倒れにつながるので取引先の倒産が原因なのですが、 その裏には、取引先に経営内容が悪化している企業を選択してしまう管理の甘さや、企業調査の至らなさがあるでしょう。
貸倒を防ぐには、新規取引先の精査や既存取引先の継続的な管理をきちんと行うことが重要です。
では、よくある原因を確認してみましょう。
企業や経営者を知っているあまり過信してしまう
大企業のグループ会社であったり、地元の有名企業であれば企業調査をせずに取引をはじめてしまうかもしれません。 しかし、有名な企業であってもいつでも順調とは限りません。取引先のネームバリューに左右されることなく、管理をきちんと行うことは重要です。
得意先に紹介されたから
得意先や親しい人物から取引先を紹介されると、断ることが難しく、与信管理を行わず取引を開始してしまうかもしれません。 しかし、紹介された取引先が倒産した時に、その得意先はあなたの会社を守ってくれません。たとえ紹介であっても、与信の管理はルールに則って行うべきでしょう。
他社が取引しているからと油断してしまう
大企業や同業他社が取引しているからと、調査せず取引を始めることはよくあることかもしれません。 しかし、大企業は常に業界情報をキャッチしており、取引先のリスクが高まった時にはいち早く撤退します。与信管理をしていない企業は、 取引先のリスクが高まった時に判断が遅れてしまうでしょう。
仕入先や下請け会社の倒産
売掛債権の管理は出来ていても、仕入先や下請け会社の管理はできていない場合もあるかもしれません。 しかし、仕入がストップすることは企業にとって大きなリスクであり、最悪の場合、新規の仕入先で架空取引などに巻き込まれるリスクもあるでしょう。 また、下請け会社や販売代理店の選定が甘ければ、トラブルなどで自社のブランドを毀損してしまう可能性があります。
忙しくて取引先の管理をしている時間がない
営業担当者が多忙で時間がなければ、企業調査をきちんと行うことなく取引が開始されてもおかしくありません。 特に、営業担当者が調査を兼務している場合はなおさらです。売上目標は大事ですが、それが損失を生んでしまっては元も子もありません。 場合によっては調査会社に調査を依頼することも検討し、リスクに備えましょう。
貸倒れを防ぐために何ができるか
売上目標や結果はどの企業も掲げているかもしれませんが、発生した売上金が回収できているか管理できているでしょうか。 売上金は回収できなければ意味がありません。貸倒れは企業にとって致命的です。事前に対策をとり事故の発生を防ぎましょう。
- 支払いが遅れた場合督促の電話をする
- 与信限度額を設ける
- 他社から情報を集め、共有する
- 与信管理サービスを提供している会社を利用する
- 売掛金の保証サービスを利用する
- 与信の足りない会社は前金制にする
まとめ
会社にとって貸倒れは損失でしかなく、最悪の場合連鎖倒産の可能性もあります。 取引先が多ければ一定の確率で貸倒れは発生するかもしれませんが、適切な企業調査を行っていれば防げる事故もあるでしょう。 会社を守るために、常にリスクに備え与信管理を行いましょう。
新規取引先や既存取引先の調査方法、管理方法についてはこちらで解説しています。ぜひご参照ください。