商取引において納品と支払いにタイムラグが発生する場合、相手に信用を付与することを「与信」といい、取引先の状況に応じて取引の規模などを変更することを「与信管理」といいます。
この管理を行うためには、取引先の状況を判断する「与信管理基準」の設定と、その基準を明示した「与信管理規程」が必要不可欠です。
今回は与信管理規程の目的から、作り方、与信管理基準の設定方法までをわかりやすく解説します。
目次
与信管理規程の目的
「与信」とは、商取引において商品の納品から代金の受け取りまでにタイムラグがある場合に、相手に信用を付与することです。
与信は企業間の相互信用の上に成り立ちますが、取引先の経営状況などによっては、自社への影響が考えられるので、取引規模や取引の可否を変更していく必要があります。
これを「与信管理」と言い、未回収リスクを低減するための判断基準や計算ルールをまとめたものが「与信管理基準」です。
与信管理の意味や与信管理基準を記載したものが「与信管理規程」であり、これを設定することで、リスクの早期発見に繋がるだけでなく、万が一の場合にもスムーズに対策が取れるようになります。
特に債権金額が多ければ多いほど、与信管理規程の重要性が増します。
与信管理規程の作り方
与信管理規程には下記のような項目を記載します。
【与信管理規程に記載すべき項目】 |
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・総則 ・与信の設定 ・与信管理 ・問題の処理 |
与信管理規程は会社内部での約束事であり、記載方法に厳密なルールはないので必要に応じて項目を増減させましょう。
総則
総則には、与信管理に関する全体的な内容を記載します。
- ・目的:与信管理を設定する目的
- ・適用範囲:適用する取引先企業の範囲
- ・責任範囲:トラブルが生じた際にどこの部署が、または誰が与信に対して責任を持つのか
ほかにも、与信を設定する債権の範囲や決裁者など、会社の状況に応じてさらに細かく内容を追加します。
与信の設定
与信の設定には下記の項目を盛り込みます。
- ・与信限度額の設定:設定する与信限度のルール、免除できるケースを記載
- ・与信限度の審査:どこの部署が審査を行うのか
- ・与信限度の登録:どこの部署がどうやって登録を行うのか
与信限度額の設定におけるルールや与信限度の審査、登録方法について記載します。
明らかに信頼性の高い取引先に対して与信を行う必要はないため、与信限度額の設定などにおいて、免除できるケースを記載しておくのが一般的です。
与信管理
与信管理には運用についての項目を記載します。
- ・与信管理の教育:規程を正しく運用するにあたって従業員に施す教育や指導方法
- ・回収状況の報告:未回収が生じた際の取引先の状況報告、回収できない場合の担当者
- ・緊急時の措置:取引先の状況が悪化した場合など、誰が・どのように・どこまで決定権を持つか
また、前項で決めた与信限度額についての見直し頻度や、断定的な取引しか発生しない場合の与信設定についてどうするかも、検討・記載しておくのが望ましいでしょう。
問題の処理
問題の処理には、トラブル時の対処について記載します。
- ・問題先の定義づけ:取引先がどのような状況に陥った場合に問題とするのか
- ・問題先への対処法:債権回収に遅延が生じた場合に対処するタイミングや方法
状況によっては、与信限度額の消滅も検討しなければいけません。また、取引先が倒産した場合の回収方法や回収計画についても記載する必要があります。
与信管理基準の設定方法
与信管理の基準は下記3ステップで設定します。
【与信管理基準の設定方法】 |
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①:取引先の情報を収集する
まず、安心して取引を行えるかどうかを判断するために、取引先の情報を集めます。
情報に不足があると、誤った判断をする可能性が高く、債権回収遅延などのトラブルが頻発することになります。そのため、安定して取引できる相手かどうかを見極めるためにも、入念に情報収集を行いましょう。収集すべき情報は下記のとおりです。
【収集すべき情報】
- ・会社の基本情報(規模・資本金額・事業内容など)
- ・決算書の情報(損益・キャッシュフロー・貸借など)
- ・経営者・役員の情報(人物像・経歴)
- ・登記関連情報(不動産・動産譲渡・債権譲渡など)
- ・事業計画の情報(拡大・縮小・投資など)
これらの情報はインターネット上でも検索できますが、時間と手間がかかるうえに、会社によっては意図的に非公開にしている場合もあります。そのため、有料サービスを利用することも検討するのが望ましいでしょう。
信用調査・与信管理のおすすめサービス
アラームボックスでは、信用調査から与信管理まで対応したサービス、「パワーサーチ」と「モニタリング」を提供しています。
パワーサーチでは、取引をはじめる前に支払状況や風評、反社チェックを代行します。500万社のデータを網羅しており、リスク情報は過去3年に遡っての提供が可能です。
モニタリングサービスでは取引先の変化やリスクにいち早く気づき、自動で通知するため、与信管理の負担を軽減できます。
是非ご活用ください
②:情報を審査・評価する
次に集めた情報に誤りがないか、代表者や住所が頻繁に変わっているといった不審な動きはないかなど、慎重に情報の審査・評価を行います。
情報の審査・評価を行う担当者によって判断に差が出やすく、混乱を招く原因となるので、あらかじめ一定の基準を設けておきましょう。
収集した情報は、決算書などの数値が確認できる「定量データ」と、風評や特性など、情報を数値化できない「定性データ」の2つに整理します。
整理した情報は、あらかじめ設定した基準に沿って信用評価を行う「絶対評価」と、業界全体と比較して信用性がどうかを判断する「相対評価」の二軸で評価を行います。
③:与信限度額を設定する
「与信限度額」とは、取引先ごとに設定した「総債権額」の上限です。
この上限設定を誤ってしまうと自社の経営が危険な状態に陥る事態を招きかねません。そのため、債権を回収できない場合も考慮したうえで、未回収が発生した場合でも安定して会社の経営ができる金額設定を行いましょう。
与信限度額の設定方法は下記のとおりです。
【与信限度額の設定方法】
- ・自社の純資産を基準に決める
- ・自社の売上債権を基準に決める
- ・取引先の仕入れ債権を基準に決める
上記は大まかな設定方法です。より詳細な方法については、「与信限度額をわかりやすく解説!算定方法と与信管理の流れとは」で解説しているので合わせてご確認ください。
まとめ
与信管理基準、また与信管理規程を定めておくことは、取引において自社を壊滅的なダメージから避けるためのボーダーラインになってくれます。
社内でリスク管理における意識づけをしておくことで、安全な取引ができるようになります。会社を守る手段の一つとして、与信管理基準および与信管理規程の設定・周知を行っておきましょう。