与信限度額(与信枠)とは?設定方法や算出方法を分かりやすく解説

画像はイメージです。実際とは異なる場合があります。

「与信限度額」の設定をきちんと行うことで、初めて与信リスクをコントロールすることができます。この記事では与信限度額の算定方法や管理方法について、分かりやすく説明いたします。

与信限度額(与信枠)とは?

「与信限度額」とは掛取引を行う際に設定する取引の上限金額のことです。与信限度額は与信枠ともいわれ、取引代金の未回収リスクを一定金額以内に抑えるために有効です。

与信限度額は取引開始時に一度設定したら終わりではなく、取引増額時や取引先の状況変化によって定期的に見直しを行う必要があります。また、取引先の信用度だけで限度額を設定するのではなく、万が一取引先が倒産した場合でも連鎖倒産しないように、自社の財務体力も考慮して設定する必要があります。

与信限度額(与信枠)設定の重要性

与信限度額(与信枠)設定の重要性

与信限度額を設定する一番の理由は「貸し倒れリスクを軽減」するためです。与信審査によって取引先の支払能力を見極め、確実に代金が回収できると考えられる金額の上限を設定しなければ、取引先に万が一の事態が起きたときに代金を回収できないリスクが高まります。

また、貸し倒れのリスク軽減という面だけでなく、売り上げ機会の損失をなくすことにも活用できます。現状の支払い能力に不安はあるものの、将来性を考慮して取引するべき相手との掛取引において、いくらまでなら取引可能か、一定の与信限度額を定めることで、取引を始めることができます。

ただし、貸し倒れが起きた場合の対応もあらかじめ決めておいた方がいいでしょう。

与信限度額(与信枠)設定の流れ

与信限度額の設定にあたり、与信基準の作成や、取引先の情報収集・分析を行う必要があります。具体的には、下記の流れで設定を行います。

与信限度額(与信枠)設定の流れ
  • ⓪与信取引の基準を定める
  • ①取引先の情報を収集する
  • ②情報の分析
  • ③社内格付け表に当てはめる
  • ④与信限度額(与信枠)を設定する
  • ⑤必要に応じて、与信限度額(与信枠)を見直す

⓪与信取引の基準を定める

与信限度額設定の事前準備として、まずは社内格付け表を作成しましょう。社内格付け表は、統一された基準にもとづいて取引先の信用力を比較するための制度です。格付け表を作成することで与信取引の基準を社内で明確にすることができます。

正しく与信リスクを判断するために、社内格付け表の作成では、規模や社歴だけで判断せずに支払能力に重点を置いて評価基準を設定しましょう。社内格付け表の作成方法については「与信審査とは?」で解説しています。

①取引先の情報を収集する

取引先の状況を正しく判断するには、情報収集が欠かせません。公開されている情報だけでは足りない場合も多いので、有料の信用調査サービスの利用も検討しましょう。

②情報の分析

収集した情報を定性面、定量面から分析し、取引に影響を及ぼすリスク要因の有無を確認します。

③社内格付け表に当てはめる

分析した情報を与信審査結果として社内格付け表に当てはめていきます。各社が設定している社内格付け表のリスク程度が「通常」の状態を基本とし、支払遅延の噂がある場合に定性面の評価を下げる、自己資本比率が高い場合に定量面の評価を上げるなど、項目別に与信審査を行い、社内格付を決定しましょう。

④与信限度額(与信枠)を設定する

社内格付け表に当てはめた結果に基づき、与信限度額を設定します。与信リスクが高く、社内格付けの評価も芳しくない企業には、回収が遅延した場合の対応についても検討しておくことをおすすめします。

⑤必要に応じて、与信限度額(与信枠)を見直す

与信限度額は一度設定したら終わりではありません。定期的に与信リスクを調査することはもちろん、取引する商品が増える場合や、取引金額を増額する場合、社会情勢の変化に伴って取引先および自社の経営状況が変わった場合など、都度見直しをし、必要に応じて与信限度額を再設定する必要があります。

与信限度額設定の流れまとめ

与信限度額の算出方法

与信限度額の算出方法にはいくつかの方法がありますここでは取引先の決算書をもらえなくても設計できる3種類の方法をご紹介します。

平均的な取引先単価を基準にした与信限度額(与信枠)算出方法

与信管理が初めての中小企業やスタートアップ企業でも導入しやすい、最も簡単で、かつ現実的な方法です。

まずは1取引先あたりの平均単価を算出し、算出した金額に売掛金の回収サイトを掛け合わせた「売掛債権の平均単価」を標準として社内格付け表に当てはめていきます。

例)1取引先あたりの平均単価が50万円で、支払いサイトが月末締め翌月末払いの場合

50万円×2か月=100万円が売掛債権の平均単価になります。この100万円を標準とし、社内格付の★3に当てはめていきます。これを基に平均的な粗利金額や自社の資金繰りを考慮して、社内格付ごとに与信限度額を決めていきます。例えば、以下のような与信限度額の設定が考えられます。

社内格付 リスク程度 定性分析 定量分析 与信限度額例
★★★★★ 万全 良好

懸念有り

良好

懸念有り

1,000万円
★★★★☆ 安全 500万円
★★★☆☆ 通常 100万円
★★☆☆☆ 不安 50万円
★☆☆☆☆ 危険 10万円

この方法で与信限度額を算出するメリットとデメリットは以下があげられます。

【メリット】

  • ・与信限度額の設定が簡単
  • ・1取引先あたりの平均単価をもとにするため、実際の取引実績をもとにした現実的な与信限度額の設定が可能
  • ・一定の規律を保ちながら、積極的な売り上げ成長を目指すことができる

【デメリット】

  • ・原価率が高く利益率が低い業態、貸倒リスクが高い業界では、基準を厳しくする必要がある。
  • ・取引先が少ない場合、1社あたりの売り上げ依存度が高くなる可能性がある

この算出方法は、一定の取引先や取引実績がある中小企業や、原価率が低くかつ売り上げ成長が必須となるスタートアップ企業におすすめの方法です。

自社の売掛債権全体を基準とした与信限度額(与信枠)算出方法

自社の売掛債権全体(売掛金や受取手形など、後日受け取ることができる債権)に対して、一定割合を掛け、格付ウエイトを加味して与信限度額を設定する方法です。以下の方法で計算します。

与信限度額=自社売掛債権全体×一定割合×格付ウエイト

例)自社の売掛債権合計が5,000万円の企業における、格付け評価が★3の取引先の場合
<一定割合=10%・格付ウエイト★3=1.1倍>

5,000万円×10%×1.1=550万円

一定割合とは
取引先に貸し倒れが起きた場合でも、影響を一定割合に抑えるために設定されるものです
格付ウエイトとは
与信管理で整備した企業ごとの社内格付けに、どれだけ重きを置くかを表すものです。

この方法は、売掛債権が一定割合を越さないような設計となっており、取引先ごとに売り上げの依存度を分散させることで、リスクヘッジを行うことができます。

 この算出方法は、取引先が多く、売掛債権金額の合計が大きくなりやすいような企業が使いやすい方法です逆に、1取引先への依存度が大きい場合や、季節によって売り上げに大きく変動がある企業には適していません。

自社の純資産(自己資本)を基準とした与信限度額(与信枠)算出方法

社内格付けのレベルに応じて、与信限度額を自社の純資産のうち何%までと設定する方法です。例えば、社内格付けが★2つと信用レベルが芳しくない場合、純資産(自己資本)の3%までを与信限度額として設定します。

自社の財務体力以上の取引は行わないため、メリットとして連鎖倒産リスクを抑えられることが挙げられます。保守的に経営する場合はこの方法が向いているといえます。
ただし売り上げ成長の速度に対し、純資産の拡大が追い付かないことも多く、成長率が低くなるというデメリットがあります。

与信管理の専門家である与信管理士からのワンポイントアドバイス

与信限度額設定において意外と難しいのが、社内格付け表や運用方針など与信基準を適宜変えていくことです。

何年も前に作成した基準ややり方は見直し、改善していきましょう。基準を作成した当時とは情報収集や調査方法も異なりますし、市場環境や商習慣、成長衰退産業も変化しています。また、取引実績を蓄積したことで、与信を積極化する部分と締める部分などのメリハリをつける材料も整ってきます。

それらを認識したうえで、自社の企業体力や戦略上重要な顧客層などを考慮して、新しい時代に合った与信管理基準や方法を改めて作っていきましょう。

外部サービスを活用して与信調査や与信管理を効率化しよう

掛取引の上限をあらかじめ決めておくと、過度にリスクを恐れず事業を展開できるようになります。一方で、取引先が多いと与信調査に多大な労力がかかり、ビジネスのスピード低下につながりかねません。与信調査と与信限度額の設定を効率化するために、外部の信用調査サービスの活用も検討してみましょう。

「アラームボックス」では、5段階の危険度で会社の信用状況を評価し、与信判断に必要な情報を丸ごと届ける「パワーサーチ」や、取引先のリスクを継続的にチェックしてリスクを知らせる「モニタリング」で企業の与信判断と与信管理をサポートします。与信管理の効率化にぜひご活用ください。

次回は「契約における与信管理の注意事項」についてです。

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