取引先が倒産し、売掛金が回収できない状況になった場合、売掛金回収は時間との戦いになります。トラブルが起こる前に、「売掛金回収の方法や手順」についてあらかじめ把握しておき、最悪の事態に備えましょう。
目次
売掛金未回収のリスク
掛取引において、厳重に与信調査や与信分析を行うことで未回収のリスクを最小限に抑えることができます。しかし入金されるまでは何が起こるかわからない以上、未回収のリスクがゼロになることはありません。
仮に未入金が発生した場合でも、一円も回収できないというリスクを抑えるために、素早く対応していく必要があります。ここからは実際に未入金が発生した場合の具体的な対応方法について記載していきます。
売掛金回収その①取引先と連絡を取る
取引先の支払いがストップした場合、会社はすぐに行動を起こさなければなりません。
支払いがなかった理由が単なるミスや請求忘れなどであればいいですが、取引先が破産の準備に入ってしまった場合、売掛金回収はできません。さらに、入金が止まった時点で連絡しても、音信不通の状況になっていることもあります。常に継続的な与信管理を行い、怪しい取引先とは取引しない、減額するといった対応をしておけばもしもの時の被害を抑えることができるでしょう。
売掛金回収の基本は、「支払いが遅れているな」と気づいたらすぐに行動することです。
未入金を確認したら、すぐに連絡を取る
未入金があったら、すぐに営業担当者から連絡をします。営業担当者から連絡をしたほうが経理や管理部より状況を聞き出しやすいでしょう。 仲のいい付き合いでも躊躇せず行動しなければなりません。放っておいても解決しませんので行動を起こしましょう。
取引先と連絡がついた場合、すぐに催促をせず、状況を確認しましょう。請求書の送り忘れや、請求内容が間違っていて入金が出来なかったなど自社に問題がある可能性を考慮しましょう。また、先方の経理上のミスの場合もあるでしょう。まずは連絡を取って状況を確認するのが大切です。
自社のミスではないことが分かった場合、先方の未入金理由は以下の例が挙げられます。
未入金理由の例 |
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・先方のミスやトラブル
単純に支払日を忘れていた場合や入金ミスがあった場合はすぐに解決するはずです。商品のミスなど、現場のトラブルから指定代金の支払いを拒否している場合は交渉に望みましょう。これらの問題は与信管理とは関連しないのでここでの言及はしません。与信管理を行っている場合はこれらのトラブルの記録を忘れずにつけておきましょう。
・手元にキャッシュがないケース
支払いの意思があるが手元にキャッシュがなく払えないと言われることもあるかもしれません。信じて待つことも可能ですが、売掛金回収を確実にしたのであれば、払えるだけでも払ってもらう、今後の契約を変えるなどの対処が必要でしょう。
期限を延長して請求書通りの支払いができるようならいいのですが、既に資金繰りに窮しているようなら難しいでしょう。今日のうちに一部でも振り込めるか、または分割でなら支払えるかなど打診をします。こういったケースでは返済計画を立てることが売掛金回収の第一歩です。交渉がまとまれば、書面やメールで話した内容を送って文面で残るようにします。返済計画通りにいかない場合は返済の意思がないものとして次の売掛金回収のステップへ進みましょう。
・払う意思がないケース
中には、取引会社を軽視して支払い義務があるのにも関わらず代金を支払わない会社があります。こういった場合はまず「内容証明郵便」で請求をし、悪質さの度合いによって弁護士などに相談、訴訟などを起こす必要があるでしょう。立場の違いに負けず、毅然とした態度で売掛金回収に望みましょう。
状況を確認した後の行動
状況を確認した後、以下の行動を行いましょう。
・契約書の確認
未回収となっている取引に関して、契約書の内容や、取引先と交わした書類の確認を行います。契約書の内容を確認することで「期限の利益損失」が記載されており先に売掛金の回収作業を行うことができるか、商品を引き渡す取引であれば「所有権の移転時期」から、取引を行った商品の所有権を現在どちらが持っているかを把握します。そこで今後どのような対応をとることができるかを確認することができます。
また、署名捺印のある売買契約書があるかを確認します。訴訟などの法的な対応をとる場合に支払いの権利を把握するための証拠となります。見積書や請求書だけでは証拠となる権利は弱くなるでしょう。
・商品の出荷停止
継続的な取引の場合、支払いがされるまでは(支払いの目処が立つまでは)商品の出荷を停止しましょう。出荷を止めることで新たな未収金が発生するのを防ぎます。場合によっては納品済みの商品を回収することも必要になります。 付き合いが長い相手であればためらうかもしれませんが、納品を続ければ被害は拡がってしまいます。相手がキャッシュに困って商品を現金化することもありえます。
支払いがされていない商品を回収する際は、無断で商品を持ち帰ったり、同意を得ずに回収したりしてはいけません。例え支払いがなくても、無断で社内に入ったり物を持ち帰ったりすれば犯罪になります。売掛金回収の現場では、緊急性の高い時こそ冷静な判断を心がけましょう。
・相殺できる債権を探す
取引先に対して未払金がある場合はこれを未収金と相殺することによって損失額を抑えることができます。自社に未払金がないか速やかに確認してください。相手が破産手続きを開始してしまった場合など、遅くなると相殺ができなくなる可能性があります。債権を相殺する場合には相殺の通知を送ります。
・私署証書を作成する
私署証書は売掛債権の存在を明確にするものです。私署証書は売掛金の未払いが発生した時に強制執行するようなものではありませんが、あらかじめ売掛債権の存在を明確にすることで不要な訴訟争いが起こるのを避ける狙いがあります。
売掛金回収その②取引先へ催告する
売掛金には時効(消滅時効)があります。一定時期が経つと売掛債権は時効が成立して権利が消滅してしまうのです。時効が成立しないように売掛金回収を進めましょう。
期間 | 債務の種類 |
1年間 | 宿泊料 運送費 飲食代金 |
2年間 | 教材費 月謝 製造業・卸売業・小売業などの売掛金 |
3年間 | 診療費 建築費・設計費・工事代金 自動車修理費 |
5年間 | 上記以外の売掛金 |
売掛金の時効を中断させるには
債権者としては時効が成立してしまっては困ります。「債務者が債務の承認をすると時効は中断する」ので、債務者へ連絡を取ることが必要です。
まずは必ず催告を行います。催告とは支払請求のことです。請求を行った事実と期日を明確にするために「内容証明郵便」を必ず利用しましょう。内容証明郵便は郵便局で利用することができます。一部の郵便局では内容証明郵便が利用できませんので最寄りの郵便局を事前に調べましょう。
催告によって支払が行われない場合、売掛金回収のために更なる行動を起こします。6か月以内に裁判所へ「支払督促(訴訟などの法的措置)」を出しましょう。6か月を超えた場合時効が成立する可能性があります。
売掛金回収その③取引先へ支払督促を出す
取引先に支払督促を出す
支払いが行われず、かつ緊急性や事件性が高い場合、簡易裁判所へ「支払督促」の手続きをを申し立てることが出来ます。
申し立てた内容が受理されれば、裁判所から債権者(取引先)へ督促状が送られます。債務者が代金を支払えばこのままこの件は終了します。 債務者から異議申立てがあった場合、民事訴訟の準備に入ります。債務者が支払わず、異議申立てもしなかった場合は、裁判所へ仮執行宣言を申立てることができ、最終的には売掛金回収のための「強制執行」となります。
- 裁判所へ支払督促を申立て
- 裁判所が債務者へ支払督促を送付
- 支払われれば終了
- 債務者が異議申立てをすれば民事訴訟
- 債務者に無視された場合、2週間が経過した日から30日以内に裁判所へ仮執行宣言を申立てる
- それでも支払がなければ裁判所から強制執行
売掛金回収その④少額訴訟を起こす
売掛金の額が60万円以下であれば場合には少額訴訟を起こすことができます。
少額訴訟は1回の審理で判決まで行われるので素早く問題を解決できます。少額訴訟は弁護士に頼らず自社で行うことも可能です。顧問弁護士などがおらず、自信がない場合には何らかの形で弁護士へアドバイスを求めることを検討したほうがいいでしょう。
売掛金回収その⑤通常訴訟を起こす
売掛金の額が60万円を超える場合は通常訴訟になります。通常訴訟を進めるには訴状を用意し、証拠書類をそろえなければなりません。裁判は売掛金が140万以下なら簡易裁判所、140万円を超える場合には地方裁判所にて行われます。弁護士に依頼している場合には出頭するのは弁護士で構いません。通常訴訟は専門的な知識が必要になりますので弁護士に依頼するのが無難でしょう。高額な売掛金回収の場合、弁護士費用を節約している場合ではないはずです。
通常訴訟は最低でも半年以上の時間がかかります。裁判の途上で資産が失われてしまうことを防ぐために、仮差押えをすることが必要です。
売掛金回収その⑥強制執行
それでも売掛金の支払いに応じない場合は強制執行の手続きが必要になります。強制執行は相手の資産を差し押さえる手続きであり、売掛金回収の最終手段です。
強制執行には執行証書や判決書などが必要になります。
売掛金の回収方法まとめ
- 取引先と連絡を取る
- 取引先へ催告する
- 取引先へ支払督促を出す
- 少額訴訟を起こす
- 通常訴訟を起こす
- 強制執行
売掛金回収の代替サービス
売掛金の回収の現場で適切な判断を下すには経験が必要ですが、企業規模や業種によっては経験を積むことが難しい場合があります。また、専門の人材を育成するための機会や費用を捻出するのは大変ですし、弁護士などへの報酬も節約したいのが本音でしょう。
売掛金の回収に関して法的に複雑な論点は通常ありませんから、少額訴訟等の手続によって債務名義を取得するところまでは自社で行うことは可能です。交渉プロセスのなかで、売掛金の債務者から任意に支払が行われることもあります。このようなケースでは、売掛金の回収に関して弁護士が関与することなく、回収手続きが完了します。
トラブルが不安な方や本業を優先したい場合は、売掛金回収の知識習得よりも、売掛金に保証や保険をかけてしまうことで損失を防ぐことができます。
まとめ
今回は売掛金の具体的な回収方法について解説してきました。売掛金の回収はスピード勝負です。未入金がわかった時点で素早く対応していきましょう。また、売掛金の回収業務は専門性も高く手間もかかります。まずは未入金を発生させないように与信管理体制を整えましょう。不安な先については売掛金を保証してくれるサービスや売掛金回収を代行してくれるサービスを活用しましょう。
次回は「債権保全」について解説します。次回の記事では売掛金を保証してくれるサービスについても紹介しています。ぜひご一読ください。
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