近年、与信調査において「定性分析」が大きく注目されています。経営者の資質や業界の評判・風評など数値であらわすことができない情報である「定性情報」は、決算書などの数値化された「定量情報」と合わせて分析することで、与信調査で得た情報をより正しい与信判断に活かすことにつながります。
今回は、与信調査で欠かすことのできない定性分析について重要性から分析内容まで解説していきます。
目次
定性分析とは?
「定性分析」とは数値では表すことのできない情報である定性情報を分析することです。具体的な分析対象としては代表者や役員の資質・能力の見極め、会社の成り立ちの把握、従業員や業界での風評情報の分析、取り扱い商品や商流、業界の分析など様々な側面から分析を行います。
従来の与信調査では数値で判断ができる点などから決算書などを用いる「定量分析」が主流でした。しかし、実際には決算書を入手することのハードルや、定量情報だけでは正確な判断ができないという事実から、定性分析が事業会社だけでなく金融機関や格付け機関でも必要不可欠なものとなっています。
定量分析の限界と定性情報の必要性
「定量分析」では、収益性や安全性、成長性など各指標ごとに分析ができ、評価しやすい特徴がありますが、一方で以下のような問題点があります。
定量分析の問題点 |
---|
|
決算書は入手できないことが多い
上場企業や大会社(資本金5億円以上または負債額が200億円以上の会社)の場合、決算情報を公開する義務があるため情報の入手は困難ではありません。しかし中小企業については、決算情報を非公開としている企業が実態として多く存在しているため、調査会社等でも決算書の入手ができないことが多くあります。
その場合は直接決算情報を入手する必要がありますが、顧客である取引先との立場関係や関係悪化も考えられるため、決算情報を入手できないことが多いです。
過去の情報で判断する必要がある
中小企業の決算書は基本1年に1回作成されたもので、かつ、入手した時点ですでに数か月の時間が経過しています。企業の状態は日々変化しており、1年や数か月前は業績が好調な企業であっても、コロナなどで経営環境が大きく悪化した場合、取引時点では業績不振に陥っていることは多々見受けられます。
このように決算情報はすでに過去の情報でありリアルタイムな現在の企業状態を把握することができません。
粉飾されていた場合に見抜けない
入手した決算情報が粉飾されていた場合、これを見破ることは容易ではありません。上場企業を含め様々な企業で決算書の粉飾が起きている昨今、与信先である取引先当事者が作成した決算情報だけを信じて取引を行うことは危険であると言えます。
このような定量分析の問題点を補うことができる情報として定性情報が活用されています。与信調査においては定量情報、定性情報の片方を調査・分析するのではなく両面から分析していくことが必要不可欠です。
定性情報の分析
与信調査において以下のような定性情報を分析していきます。
記載したすべての定性情報について、すべての取引先を詳細まで分析する必要はありませんが、与信残高の多い主要取引先などはより多くの項目を分析するように努めましょう。
分析すべき定性情報 |
---|
|
沿革や株主、グループ
会社を設立した背景や、どのように会社が存続、発展してきたかという経緯などを把握します。これらをしっかりと把握することで、休眠企業を使った取り込み詐欺などのリスクを防ぐことができます。また、業歴は浅いが株主からの資金調達により急成長している、など会社の基本的な経営基盤がわかります。
親会社がある場合、資金繰りに困ったときは親会社が助けてくれることも多く、子会社や関連会社に問題を抱える会社がある場合、足を引っ張られる可能性もあります。
取扱商品や技術、業界動向
取引先が扱っている商品や技術、属している業界の将来性や競合状況などの動向を把握します。
・商品や技術について
他社と比べた競争力や独自性があるか、市場が成熟しきっていないか、取り扱い商品・技術の数によるリスクはどの程度か(1つの商品のみの場合、競合他社の参入により顧客を奪われるリスクがあります)などを把握していきます。
・業界動向について
取引先企業の業界順位、業界全体の将来性や市場規模、法改正や景気変動など、どこに業界が衰退するリスクがあるかなどを把握します。
仕入先、販売先、取引金融機関
仕入先、販売先、取引金融機関など取引先に影響を与える周りの企業との状況を把握します。
・仕入先について
安定した営業活動を続けるためには材料や部品を安定して仕入れる必要があります。主要な仕入先が確保できているか、仕入先の倒産リスク、万が一仕入先が倒産した場合別ルートから調達できるかなどを把握します。
・販売先について
販売先が確立されていることは会社の営業基盤が盤石で売り上げが安定していることを意味します。安定した販売先を持っているか、販売先の倒産リスク、販売先が倒産した場合、どの程度取引先に影響を与えるか把握するために主要販売先との取引金額や取引量などを把握します
・取引金融機関について
大半の企業では自己資本とともに金融機関などから資金を借りて経営を行っています。資金を借りている先の中に聞いたことない会社や怪しい会社が存在しないか、メインとなる金融機関はどこか、過去に入れ替わっていないか、入れ替わっていた場合の経緯、取引金融機関数は多すぎないかなどを把握します。
事務所や工場
取引先の事務所や、保有している工場について把握します。
バーチャルオフィスなどではなく実態があるか、店舗や事務所の立地条件や大きさなどは会社の規模からみて適切な大きさか、工場の設備投資は適切に行われているか、工場内に必要以上の在庫を抱えていなかったかなどを把握します。
企業の評判や風評
従業員や労働環境、販売商品など世間からどのような評価を受けているか把握します。従業員の行動やモラルに問題はないか、労働環境が悪く今後問題になる可能性があるか、販売商品やサービスに関する消費者の評判などが挙げられます。インターネットの発達によりこのような企業の評判や風評は口コミサイトに書き込まれています。匿名性も高く判断も難しいですが、ネット上の口コミ情報は将来の売上にも影響をするため、重要な判断基準となっています。
アラームボックスではネット上の口コミ情報を収集し弊社で信頼性を判断して情報をお届けしています。アラームボックスをぜひご活用ください
代表や役員などの経営陣
代表者や役員など経営陣について把握します。
経営陣の経歴や反社との関わりがないか、代表者の経営手法や個人資産状況、代表者が暴走したときの役員陣の影響力等を把握します。
与信の専門家である与信管理士からワンポイントアドバイス
与信調査において、定性情報の分析および判断は難しいとされています。
評判や風評、現地の状況など定性情報は数値で表すことができないため、与信管理担当者の個人的な主観で判断が大きく変わってきます。評判や風評などをどの程度与信判断に加えるか、訪問時のチェックシート作成、具体事例を交えた社員の教育などを行い、なるべく客観的かつ統一的な判断ができるよう体制を整えていきましょう。
まとめ
今回は与信調査で重要な「定性分析」について解説してきました。せっかく得られた定性情報を活かすことができると、与信精度の向上に大きく貢献できます。次回は、与信判断のための「定量情報の分析」について解説します。
※当ブログ記事はリンクフリーです。記事を引用または参考とした場合、出典元として「アラームボックスブログ」の記載および「対象記事URLへのリンク」貼付をお願いします。