与信管理における契約書の必要性。トラブル回避のために記載すべき契約条項

契約について

画像はイメージです。実際とは異なる場合があります。

契約書の有無にかかわらず企業間取引は成立しますが、トラブル回避などのリスク管理上の観点からも契約書の締結は必要となります。この記事では与信管理における契約書についてその必要性や記載すべき契約条項について紹介していきます。

契約とは?

契約は民法第五百二十二条(契約の成立と方式)では以下のように示されています

第五百二十二条 契約は、契約の内容を示してその締結を申し入れる意思表示(以下「申込み」という。)に対して相手方が承諾をしたときに成立する。
2 契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない。

引用:e-Gov法令検索 民法

つまり契約とは当事者同士が合意することで成立するものであり、法的拘束力を持っています。

当事者同士の合意により成立するため、契約書への承諾だけでなく口約束でも双方が合意した場合には成立します。例えばスーパーで食材を購入する場合、契約書などは結んでいませんが、表示された金額の代金を支払うことで売買契約が成立しています。

これは食材を売りたいスーパー側と食材を買いたい消費者側が、お互いの合意のもと売買を行うため、契約が成立していることとなります。

契約書とは

一般的に企業間取引やお金の貸し借りなど、多くの取引では契約書を作成し契約を結んでいます。契約書とは契約内容が明示されており、双方の合意の上で契約が締結されたことを証明する文書になります。

契約書の締結が義務付けられている場合もありますが、多くの取引では、トラブル回避や、裁判になったときの証拠として残すために、契約書を作成し締結します。

企業間取引では、取引開始前に「売買基本契約書」や「取引基本契約書」という、将来にわたり共通する条件を記したベースとなる契約書を締結します。その後は、個別の取引ごとに「注文書・注文請書」「納品書・検収書」「請求書」などをやりとりします。

なお最近では、インターネットサービスなど、双方合意型の契約書でなく、利用企業がサービス利用規約を承諾することで、契約が成立するようなケースも増えてきています。

契約書の必要性

契約書はなぜ作成するべきなのか?一般的な理由と与信管理の観点から見た必要性について3つご紹介します。

トラブルの回避

契約書には、双方が合意した取引条件などの明示や、両者に何かあったときの対応、契約内容に違反したときの罰則などを記載して契約を締結します。契約内容が明記されていることで、双方で合意した内容が明確となり、取引内容や緊急時の対応に誤解が生じることを未然に防ぐことができます。

また、契約違反を犯した場合の責任や罰則が記載されていることで、取引後に不明点があれば双方で事前に確認するなど取引を注意して行うようになりトラブルを未然に回避することができます。

訴訟やトラブル時の証拠

契約書を締結すると双方が合意したとみなされ契約に法律的拘束力が発生します。そのため、契約違反があり裁判となった場合、契約書は重要な証拠として扱われます。特に裁判では証拠があるかどうかが重要なポイントとなるため契約書に契約内容を明記し締結することが重要です。

また、訴訟だけでなく取引にトラブルが発生した際、契約書に記載があると契約内容に即した対応を取ってもらうよう促すことができます。

契約内容を自由に決められる

契約自由の原則から契約内容は基本的に自由に決めることができます。買いたたきを禁止する下請法や、独占禁止法など、公の利益に関する法律である「強行法規」に反するもの以外であれば法律と異なる契約内容であっても契約内容が優先されます。

そのため、支払遅延時はすぐに代金を回収できる、支払いが完結するまで商品の所有権を譲らない、未払いが発生した場合は契約を解除できる、などの内容を記載し、万が一取引先の信用不安が起こった際の対策を取ることができます。

契約内容を自由に決められるという点が与信管理上非常に重要です。なぜなら債権の回収や契約の解除に関する法律は条件が厳しく信用不安に陥ったときの初動が遅れてしまいます。トラブルが発生したときはスピードが重要になります。債権を確実に回収するための施策である「債権保全」という面から、法律で定められている範囲よりも広い範囲で対応できるような契約書を作成する必要があります。

与信管理で記載すべき契約条項

ここでは与信管理の観点から契約書に記載するべき契約条項をいくつかご紹介します。

取引先に倒産、支払遅延が発生した場合や反社会的勢力であった場合など、自社のリスクを抑える与信管理の一環として以下の条項を記載することをおすすめします。

与信管理で記載すべき契約条項
  • ・期限の利益喪失条項
  • ・契約解除条項
  • ・所有権留保条項
  • ・合意管轄条項
  • ・相殺予約条項

期限の利益喪失条項 

期限の利益喪失条項とは取引先の状態が悪化し倒産や支払遅延が発生した場合、直ちに売掛金を支払うよう請求できる規定のことです。

期限の利益とは、債務者(取引先)は支払期日が来るまでに支払いを完了していればいい権利のことを指します。言い換えると債権者(自社)は支払期日が来るまで支払いを強制することができません。期限の利益があるということは、取引先に信用不安が発生し支払いが滞る可能性がある場合でも、支払期日前に代金支払いを強制することができないということです。

信用不安が発生しているにもかかわらず支払期日まで代金を請求できない状態だと売掛金の未回収リスクが高まります。そこで期限の利益喪失条項を設定しておくことで取引先の信用不安が発生した際、すぐに代金を回収できるようになります。

契約解除条項 

契約解除条項 とは取引先に不渡りや差押え、法的整理など信用不安が発生した場合や反社会的勢力であると判明した場合など、一方的に契約を解除できるよう定めた規定のことです。

債務不履行がある場合など、契約を解除できる法律上の規定はありますが、取引先の信用が悪化した場合、法律上の規定だけでは契約を解除できません。そこで契約解除条項を設け契約解除の範囲を広げることで、上記のような明らかな信用不安がある取引先との契約をすぐに解除できるよう対応します。これにより、契約解除となった取引先へ商品を納品する必要もなくなりますし、取引先から商品を回収することもできるようになります。

所有権留保条項

所有権留保条項とは代金が全額支払われたときに、はじめて商品の所有権を引き渡すことを定めた規定です。

支払が完了するまでは自社に所有権があるため、取引先の倒産や支払遅延が発生した場合商品の回収が容易になります。また、回収した商品を売って未回収分の金額を回収することもできます。

合意管轄条項

合意管轄条項とは取引相手と裁判になった際、どこの裁判所で裁判を行うかを定めた規定です。この条項を定めることで万が一裁判となった場合、自社や自宅に近い裁判所で裁判を行うことができます。

相殺予約条項

ある条件が成立した場合において、お互いの債権を相殺させることができるよう定めた規定のことです。与信管理の観点では、ある条件に「期限の利益を喪失した場合」と記載し、未回収のリスクが高まった場合に相殺できるという旨の条項になるでしょう。取引先に対し、売掛債権だけでなく買掛債権も持っている場合(掛取引で商品を販売しているだけでなく、取引先から商品購入も行っている場合)に有効な手段となります。

例)自社が取引先に対して100万円の売掛金と50万円の買掛金を持っている場合。

取引先に信用不安が発生した際に自社の買掛金50万円分を売掛金と相殺し、売掛金の未回収金額を50万円まで減らすことができる。

相殺予約条項を記載すべき理由は、取引先に信用不安が発生しているが売掛債権の支払期日が到達していない場合、相殺予約条項を記載しておくことで、買掛金の金額分を売掛金で相殺させ売掛金の未回収金額を減らすことができるためです。

ただし、指定した売掛債権が債権譲渡登記されている場合、第三者に債権がわたっているため相殺条件が認められなくなります。相殺予約条項では債権譲渡登記を禁止する内容も追加しておくとよいでしょう。

まとめ

今回は与信管理の観点から見た契約書についてその必要性や記載すべき条項を解説してきました。

契約書を結ぶことで事前にトラブルを回避できるだけでなく裁判時の強い証拠となります。また、公の利益に反する強行法規以外であれば法律よりも契約が優先されます。

債権保全や回収、反社会的勢力の排除など自社のリスクを最低限に抑える与信管理の一環として自社の取引に有利になるような契約書を作成しましょう。

次回は取引開始後の「継続調査やモニタリング」について解説します。

※当ブログ記事はリンクフリーです。記事を引用または参考とした場合、出典元として「アラームボックスブログ」の記載および「対象記事URLへのリンク」貼付をお願いします。