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売掛債権の競合とは
みなさんが取引先に対して売掛債権がある場合、みなさんは売掛金の債権者となります。一方でその取引先は、他にも仕入先があったり、金融機関から借り入れをしている場合があるでしょう。
その場合は、みなさんは売掛金の債権者として、他の債権者と競合していることになります。ただし、競合しているといっても、通常時は売掛金や他の支払をきちんと出来ているでしょうから、あまり競合を意識することはありません。
どんな時に売掛債権の競合を意識するのか?
売掛金が未回収になったときには、他の債権者との競合を意識して行動する必要があります。取引先は支払が出来ていないわけですから、みなさんの会社以外の債権者からも支払の催促がきていると考えるのが自然でしょう。
担保や保証金がある場合を除き、売掛金の回収は取引先の支払原資が残っているうちに済ませておかないと、他の債権者への支払が優先されてしまう可能性もあります。
差押えで売掛金の回収をする場合はどうなる?
債務名義にもとづき、債務者の財産を差し押さえて売掛金の回収を図る場合でも、他の債権者と競合することがあります。みなさんが債務名義を得て差押えを行ったからといって、必ずしも優先的に弁済(売掛金の回収)を受けられるわけではありません。
たとえば取引先の所有不動産を差し押さえて売掛金の回収をしようとするとき、他の債務名義を有する債権者が配当要求をしたりすることがあります(※1)。その場合、不動産の競売代金がそれぞれの債権額に応じて配分されることになります。
税務署や役所と債権が競合する場合も
また、一般の事業会社以外で、税務当局のような公的機関による差押えが行われることもあります。たとえ赤字決算で法人税等を納めなくてよい会社であっても、消費税、源泉所得税、社会保険料等の納付義務はあります。
みなさんの取引先が資金繰りに難渋しているような場合、買掛金(みなさんから見れば売掛金)だけでなく源泉所得税や社会保険料の納付も怠って、税務当局等から滞納処分を受けることにより、みなさんの売掛債権と競合するわけです。
担保・保証の有効性
担保・保証をとれるかが重要
このように売掛債権が他の債権者と競合する可能性を考慮すると、他の債権者に優先して弁済を受け、売掛金回収の確実性を高めるためにはどれだけ担保・保証をとれるかがカギとなってきます。
ここでは詳細に立ち入りませんが、たとえば債務者(取引先)が法人であればその代表者に連帯保証人となってもらう等の人的担保(人的保証)、債務者が事務所や店舗等の賃貸借契約に関して賃貸人に差し入れている敷金の返還請求権について、質権(債権質)を設定してもらう等の物的担保(物的保証)などが挙げられます。
担保・保証をとることの難しさ
ただし、担保・保証をとれれば有利なことは、他の債権者も重々承知です。現実的には他の債権者がたくさんいる中で、みなさんの会社だけが担保・保証をとることは難しいと言わざるを得ません。
それでもみなさんの会社が、取引先にとって極めて重要な取引先である場合には、交渉の余地があるかもしれません。平常時から、取引先の資産状況などは把握しておき、必要に応じて担保・保証の交渉ができる可能性があるかを把握しておきましょう。
なお、費用をかけてでも売掛金の回収を確実にしたい場合は、売掛保証会社に依頼をして、売掛債権に保証をかけてしまうこともできます。ただし、すでに支払が滞ってからでは保証を引き受けてもらえないので注意が必要です。
※1 民事執行法 第51条