売掛金は、掛売りが主流の企業間取引で発生する、提供済商品などの対価を将来受け取る権利のことです。売掛金の処理方法や仕訳例について、具体的な事例を交えて解説します。
未回収の販売代金を将来受領する権利にあたる「売掛金」は、企業間の掛取引において必ず発生するものです。売掛金を回収できないまま、仕入れのための買掛金が増えていくと、収支のバランスが崩れて経営を圧迫することになりかねません。
ここでは、売掛金処理の方法について解説します。また、支払い方法別や代金が一部回収できた場合、できない場合など、具体的なケースごとの仕訳方法についても見ていきましょう。
目次
信用取引において、提供商品などの対価を後から受け取る権利である売掛金
売掛金とは、相手の信用にもとづいて後払いとした売上の対価について、将来的に支払いを受ける権利のことです。
企業間の商取引では信用取引が行われることが多く、先に製品やサービスを提供し、一定期間の取引で生じた代金をまとめて請求する「掛売り」が主流です。掛売りには、取引回数が多いほど煩雑になる購入手続きを簡素化できるメリットがある反面、相手が代金を支払わないリスクをはらんでいます。
売掛金は債権の一種
代金未回収リスクがある企業間取引では、掛売りで提供が済んだ製品やサービスの代金を請求できる権利として「売上債権(売掛債権)」が存在しています。この売上債権のことを売掛金といい、支払いを約束して発行された手形を「受取手形」といいます。
売掛金と混同しやすい言葉との違い
売掛金について考えるとき、混同しやすい言葉がいくつかあります。それぞれの言葉について、しっかりと把握しておきましょう。
未収入金
未収入金は、営業活動以外の取引において発生した、未回収の代金のことです。すでに取引が成立していて、代金が回収できていない点で売掛金と共通している部分がありますが、未収入金は基本的に本業とは異なる部分で発生した未回収代金であることが大きな違いです。例えば、固定資産や有価証券の売却代金がこれにあたります。
未収収益
通常の営業取引において、一定の契約にもとづいて継続的に役務を提供する場合、すでに提供したサービスの未回収収益を未収収益といいます。例えば、手数料、地代家賃などです。
買掛金
売掛金と同じく、信用取引に区分される掛取引によって生じた未払い金ですが、商品やサービスの提供を受けた後で代金を支払わなければならない、債務にあたるのが買掛金です。
取引後に代金を受け取る権利が「売掛金」、支払う義務が「買掛金」と考えると区別しやすいでしょう。
前受金
前受金は、商品やサービスの引き渡しが完了する前に、手付金や着手金として受け取った金銭を示す勘定科目です。顧客から入金があった際に前受金か売掛金か判断するには、入金時の伝票日付をチェックしましょう。売上計上時の伝票日付より前になっていれば、前受金だと判断できます。
立替金
立替金は、従業員や取引先が支払うべき費用を、企業が一時的に立て替えた場合の処理に使う勘定科目です。受け取る権利があることは売掛金と同じですが、売掛金は売上に対する債権であり、立て替えとは異なります。
仮払金
仮払金は、具体的な用途や金額が未確定なときに、一時的に使用される勘定科目です。最もわかりやすいのは、従業員の出張に際して支払った費用などでしょう。宿泊費や交通費など、支払いの時点では用途が限定できないため、仮払金として処理されます。内容が確定したら、正しい勘定科目などに振り替える必要があります。
売掛金を処理する際の流れ
取引において売掛金が生じた場合、どのような処理をすればいいのでしょうか。処理の流れと具体的な作業について確認しておきましょう。
1.売掛金が発生したら、売上として帳簿に反映する
商品やサービスを提供し、納品書や請求書を送付して売掛金が発生したら、売上金として計上します。クライアントごとに売掛金を管理するための、「売掛金元帳」へも記帳しましょう。
2.売掛金の入金を確認し、消し込み作業を行う
入金予定日や入金期限までに無事に入金されているかを確認します。入金日・入金名義・入金金額といった実際の入金情報と、売掛金の内容を照らし合わせながら、相手企業から請求どおりに入金があったのかを確認し、債権を消していく「入金消し込み」という経理作業を行います。入金消し込みでは、売掛金元帳で借方(左側)にある売掛金を貸方(右側)に移します。
3.残高を確認する
1ヵ月など一定の期間を決め、売掛金残高一覧表を使って未入金の有無、金額のミスがないかなどを確認します。
売掛金の仕訳例から具体的なイメージをつかもう
売掛金処理の流れが確認できたところで、具体的な数字を交えて、考えられるシーンごとに仕訳例を見ていきましょう。
なお、売掛金を仕訳帳に記帳する際には、取引を借方と貸方に分けて記帳し、それぞれの金額を一致させる必要があります。
売掛金が発生した場合
企業間取引で売掛金が発生したら、次のように売掛金を仕訳帳に記帳します。
・A社との掛取引で、商品税込み20万円の売上があった
借方 | 貸方 | ||
売掛金 | 200,000円 | 売上 | 200,000円 |
売掛金を回収できた場合
売掛金を回収できた場合の処理について、「銀行振込」「小切手」「手形」「クレジットカード」それぞれのケースで見ていきましょう。
・売掛金30万円が振り込まれた
売掛金の額がそのまま振り込まれる場合と、振込手数料が引かれて振り込まれる場合があります。振込手数料220円が引かれている場合、下記のように仕訳します。
借方 | 貸方 | ||
普通預金 | 299,780円 | 売掛金 | 300,000円 |
支払手数料 | 220円 |
・売掛金の回収のため、他社振り出しの小切手30万円を受け取った
他社振り出しの小切手は「現金」として処理するため、下記のように記帳します。
借方 | 貸方 | ||
現金 | 300,000円 | 売掛金 | 300,000円 |
・売掛金の回収のため、15万円の手形を受け取った
手形で受け取った場合は、下記のように記帳します。
借方 | 貸方 | ||
受取手形 | 150,000円 | 売掛金 | 150,000円 |
・クレジットカード払いで10万円を売り上げ、後日クレジットカード会社から手数料2,000円を差し引いて振り込まれた
借方 | 貸方 | ||
クレジットカード売掛金 | 98,000円 | 売掛金 | 100,000円 |
支払手数料 | 2,000円 |
買掛金と相殺する場合
取引先に支払う買掛金と、受け取る売掛金を相殺するケースでは、次のように記帳しましょう。
・売掛金30万円を買掛金10万円と相殺し、残りを約束手形で受け取った
売掛金と買掛金を相殺する場合は、下記のように勘定科目と金額を記帳します。
借方 | 貸方 | ||
買掛金 | 100,000円 | 売掛金 | 300,000円 |
約束手形 | 200,000円 |
売掛金を一部回収できた場合
売上のうち一部を現金で受け取り、残りを掛け払いにしたケースでは、下記のような処理が行われます。
・売上代金50万円のうち、現金で10万円を受け取り、残りを翌月払いとした
一部現金で受け取った後、残りの40万円を約束手形で受け取る場合は、下記のように記帳します。
借方 | 貸方 | ||
現金 | 100,000円 | 売掛金 | 500,000円 |
約束手形 | 400,000円 |
返品処理する場合
返品処理するケースでは、下記のような処理が行われます。こちらに非があって返品された場合、売掛金から差し引く処理を行うことが多いでしょう。
・納品済みの商品のうち、30個分(15万円)の返品があった
納品済み商品から15万円分の返品があった場合は、売掛金が発生した場合と反対の記帳をします。
借方 | 貸方 | ||
売上 | 150,000円 | 売掛金 | 150,000円 |
値引きする場合
取引において値引きをする場合は、次のように記帳しましょう。
・売掛金20万円に対して1万円の値引きがあり、19万円が入金された
値引きする場合も、借方と貸方の合計金額が一致するよう、下記のとおり記帳します。
借方 | 貸方 | ||
普通預金 | 190,000円 | 売掛金 | 200,000円 |
売上値引き | 10,000円 |
売掛金が回収不能になった場合
取引先が倒産するなどして売掛金が回収できなくなった場合、「貸倒損失」として処理をします。
なお、税法上で損金として認められるには条件があるほか、事実上の貸倒や形式上の貸倒では、損金として認められないケースもあります。
・取引先が倒産し、売掛金30万円が回収不能になった
取引先倒産によって売掛金が回収不能に陥ったら、借方の勘定科目を貸倒損失として記帳します。
借方 | 貸方 | ||
貸倒損失 | 300,000円 | 売掛金 | 300,000円 |
売掛金を管理する上でのポイントは?
売掛金は未回収リスクが発生しないよう、適切に管理することが大切です。売掛金の時効は5年のため、一定の期間を決めて売掛金の回収状況を確認し、不良債権化を防ぎましょう。場合によっては、法律の専門家に相談の上、支払督促や少額訴訟等の対応が必要な場合もあるかもしれません。
また、帳簿上は売上が立って利益が出ているにもかかわらず、手元にある資金が枯渇してしまうことで倒産する黒字倒産を避けるため、取引は与信限度内で行うことが大切です。与信限度額は、掛売りで取引をしても貸し倒れのリスクがないかどうか、取引先ごとに信用度を見極めた上で設定してください。
取引先のチェック方法や管理方法については以下記事もご参照ください。
企業間の掛取引では、与信管理が欠かせない
企業間の掛取引においては、相手先の支払い能力を慎重に見極めて代金未回収リスクを可能な限り抑えること、仮に代金が回収できない場合も損失金額を最小限にとどめることで、キャッシュフローを悪化させないことが重要です。正しく与信管理を行い、取引先の経営悪化の予兆を見逃さないように努めましょう。
「アラームボックス」では、取引先の情報を継続的に収集し、倒産の前兆となる情報を早期に見つけて提供する「モニタリング」などのサービスを提供しています。大量の取引先の情報をくまなくチェックすることで、手遅れになる前に手を打つことが可能です。また、新規取引先の与信判断には、「パワーサーチ」もご活用いただけます。
安定した経営には、取引先の与信管理は欠かせません。与信管理の効率化にぜひご活用ください。