一見難しそうな与信管理サービスである「取引信用保険」を、簡単に、分かりやすく解説します。取引信用保険を活用して、会社の資産の2割~4割を占める売掛金を守るということは、会社全体を守るということでもあります。ぜひ取引信用保険について知っておきましょう。
取引信用保険の基本的な内容から、保険料率などの条件、メリットデメリット、扱っている主な保険会社各社までわかりやすく解説します。
目次
取引信用保険とは
保険には法人向けに様々な種類があります。そんな数ある法人保険の中でも、企業間取引を行っている会社にとって役立つ「取引信用保険」について、まずは概要や保険料などを解説していきます。
取引信用保険とは?取信ってなに?
取引信用保険とは、損害保険会社が提供する保険の一つで、取引先企業である販売先や発注元が万が一倒産した場合に、未回収となった売掛金や手形債権の損害に対して保険金が支払われるものです。つまり簡単にいえば、取引信用保険は取引先の倒産リスクに備える保険です。取引信用保険は、略して「取信(とりしん)」や、その特性から「倒産保険」や「売掛金保険」とも呼ばれています。
取引信用保険は100年以上の歴史がある保険制度で、海外、特に欧州では3割以上の企業が導入していると言われています。日本でもバブル崩壊後の1990年代後半から大企業を中心に徐々に普及し始めており、リーマンショックなどの不況期を経て、今後も中小企業まで導入は増えていくと思われます。
補償内容は?
取引信用保険の補償内容は、営業上で取得した売掛債権や手形債権を対象とし、取引先が倒産した際に、設定した支払限度額内の債権が補償されるというものです(貸付金や家賃などは原則対象外となります)。
縮小率とは
また、取引信用保険には「縮小率(『支払縮小割合』などとも言う)」というものがあり、支払限度額内の債権が100%補償されるとは限りません。縮小率とは支払われる保険金額を算出する際に使われるもので「実際の損害額に縮小率を乗じた金額」と「支払限度額」のどちらか小さい方が保険金額として支払われます。
例えば、300万円の支払限度額を設定した取引先が倒産した場合について説明します。
①300万円だった場合 ・・・ 300万円 × 縮小率90% = 270万円
支払われる保険金額は小さい方の270万円
②400万円だった場合 ・・・ 400万円 × 縮小率90% = 360万円
支払われる保険金額は小さい方の300万円
縮小率は 一般におよそ90%~95%くらいです。
倒産事由とは
倒産事由に該当すると保険金を受け取ることができます。主な倒産事由は次の通りです。
- 法的整理(破産、民事再生、会社更生、特別清算)の申立や開始
- 手形や小切手の不渡り、手形交換所取引または銀行取引の停止処分
- 任意整理(私的整理)の開始
- 夜逃げ
なお、倒産事由に該当する前で支払が遅れている状態の場合は保険の対象外ですが、保険会社によっては特約という形で対象可能になることもありますので、希望する場合は特約が付けられるのか事前に確認をしておきましょう。
取引信用保険の保険料
保険料は、保険を設定した取引先の支払限度額に対して、保険料率を乗じたものになります。保険料率は年間3%程度が平均的です。
例えば、保険を設定したい取引先数が10社、それぞれ300万円ずつの支払限度額の設定をし、保険料率3%の場合の計算は次の通りです。
10社 × 300万円 × 3% = 年間保険料『90万円』となります。
取引信用保険のメリット
1.未回収の損失が防げる
取引信用保険の本来のメリットで、未回収金が保険金でまかなわれます。会社を守る上で、取引先の与信管理や債権保全は重要なことです。
2.資金繰りや決算の悪化を防ぎ、取引銀行からも好印象に
取引先が倒産して債権に焦付きが出た・・・取引銀行や他の取引先から「おたくは大丈夫か!?」と心配されるかもしれません。ですが、取引信用保険を活用して債権保全していれば、社内だけでなく社外に対しても安心感を与えることがきで、信用度合いが上がります。
また、貸倒が保険でカバーされるため資金繰り悪化や損失計上を抑制でき、保険料を毎年費用として平準化することで決算数値も安定します。
3.取引拡大に
これまで取引額を抑えていたり、取引自体を断った先でも、保険が掛かるなら取引拡大や新規取引に繋がります。取引信用保険は守りだけでなく、攻めにも活用できます。保険会社による与信審査判断も参考にすれば、与信管理体制も充実します。
4.債権回収業務などの営業員のモチベーション低下を防ぐ
営業員の不可抗力で発生した取引先の倒産・・・それが、営業員の足かせになってしまい、売上が下がることにもなります。取引先が倒産した時などの債権回収が一番大変です。回収の見込みがほぼ無いものに対して、回収の手間ひまを掛けないといけないのです。
営業員もそのような経験をしてしまうと、他の取引先への販売を無意識のうちに抑制してしまうかもしれません。つまり、多くの見えないコストが発生しており、そのうえで回収出来ないという事がほとんどです。取引信用保険を利用することで、回収業務をせずに売掛債権が保全できます。
5.節税対策に
取引信用保険は保険ですので、もちろん保険料として経費計上することが可能です。何かに経費を掛けたいと思っているなら、無駄なものを購入するより、債権の保全も可能な取引信用保険に掛ける方が節税もできて効果的ともいえます。
取引信用保険のデメリット
1.必ずしも保険が掛かるとは限らない
取引信用保険を利用するには、保険会社による取引先の与信審査があります。取引先によっては保険が掛からない、もしくは希望通りの支払限度額が出ないこともあります。
2.取引先を選んで利用することはできない
不安な取引先だけを保険に掛けたいとしても出来ません。保険会社によって条件は様々ですが、取引信用保険は原則、「全取引先に対して設定」や「売上上位20社」など、一定の条件のもとで複数社を設定する必要があります。
3.今ある債権をすぐに保全することはできない
取引先が倒産しそうで、今すでに所有している手形債権、すでに請求が発生している売掛債権を保全したい・・・という場合、取引信用保険では原則対応できません。取引信用保険は保険開始日以降に発生した売掛債権などが対象です。前もって備えておくことが重要です。
4.請負などは対象外
取引信用保険は原則『物販(商品など、物の売買)』が対象です。建設工事やサービスなど『請負』は対象外になります。(一部保険会社によっては対象にしていることもあります)
取引信用保険を開始するにあたって
ここでは、取引信用保険を開始するにあたって確認しておくことを解説します。
取引信用保険の導入前に確認すること
・予算は?
取引信用保険に掛けられる予算(費用)をある程度確認しておきましょう。利益率や、過去の貸倒状況などを踏まえたうえで、どれくらいの費用が掛けられるのか事前に設定しておくと良いでしょう。
・設定する取引先はどこにする?
取引信用保険を全取引先に設定したい場合を除き、大手上場企業など安全な取引先にわざわざ保険を掛ける必要はないでしょう。保険会社によって設定できる条件は違いますが、事前にどういった先を設定したいのか決めておきましょう。
・設定する取引先の現状は?
取引信用保険は既に支払いが滞っている取引先は保険の設定ができません。取引先の支払い状況などは事前に把握しておきましょう。
取引信用保険の各社の比較と購入方法
取引信用保険は損害保険の一つですので、扱っている保険会社は損害保険会社です。生命保険会社ではありません。補償内容や保険料で比較するために、見積もりをもらいましょう。保険料は誰が購入しても同じという訳ではなく、保険でカバーしたい取引先の信用度によって料金が変わってくきます。
主に取引信用保険を扱っている国内の損害保険会社は次の通りです。
- あいおいニッセイ同和損害保険
- 三井住友海上火災保険
- 東京海上日動火災保険
- 損保ジャパン日本興亜
- 明治安田損害保険
主に取引信用保険を扱っている外資系の損害保険会社は次の通りです。
- ユーラーヘルメス信用保険
- コファスジャパン信用保険
直接各社に問い合わせても良いですが、懇意にしている保険代理店がこれらの損害保険会社を扱っている場合は、その保険代理店に相談してみてもいいでしょう。また、全国の商工会議所などが窓口になっていることもあります。
取引信用保険と使い分けるサービスを比較
取引先が倒産しないのが何より一番ですが、100%倒産しないと言い切れない以上、取引信用保険を始め、次のようなサービスを利用して万が一に備えることは経営者として重要な検討事項のひとつです。
倒産防止共済(経営セーフティ共済)とは
取引先の倒産による中小企業の連鎖倒産などを防止するための共済制度で、毎月、掛金を積み立てていき、その積み立てた掛金総額の10倍相当額の共済金が借入れできるものです。ただし、加入から6ヶ月経過後の倒産でないと適用されなかったり、あくまで借入れなので返済が必要になります。
ファクタリングとは
主にメガバンク系のファクタリング会社が提供するサービスで、「保証ファクタリング」と「買取ファクタリング」の2つがあります。保証ファクタリングは取引信用保険と同じ、取引先が倒産した時に売掛金を保証するものです。買取ファクタリングは売掛債権をファクタリング会社に買い取ってもらうことが出来る資金調達方法の一つで、売掛債権を早期資金化が出来るものです。
売掛債権保証とは
売掛債権保証は、売掛金などを保証する保証会社が提供するサービスで、取引信用保険や保証ファクタリングに比べ柔軟な対応や設計が可能です。例えば、少ない社数での設定が可能だったり、倒産だけでなく支払遅延も保証対象にしたりなどです。
取引信用保険の注意事項
告知義務や報告義務はすごく重要
取引信用保険を利用する上で注意することとして「告知義務」「報告義務」があります。
例えば、取引先が既に支払い遅延状況にあったり、支払い状況が悪いことが分かっているのに、それを隠して、またはきちんと確認せぬまま保険利用した場合、いざ取引先が倒産しても保険金が支払われません。また、商習慣などで業界では当たり前のことでも、保険会社では対象外になりえることもあります。保険利用する前にしっかりと確認をしておきましょう。
保険が掛かっている取引先に変化が無いか、特に支払い状況には常に注意しておかないといけません。万が一支払い遅延や状況に変化があった際には遅滞なく保険会社に報告をするようにしましょう。これらを怠ったために、保険金が支払われないとなると、折角保険を掛けていたのに無駄になってしまいます。
実務で具体的に気をつけるポイント
保険が掛かっているからと言って、際限なく取引をしてもいいとは限りません。取引信用保険では取引先ごとに支払限度額が決まっています。実際に倒産などした場合は、この支払限度額内の債権しか保証されません。保険を利用していても、取引額が支払限度額をオーバーしていないか、常に注意しておきましょう。
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