掛売りとは? 商取引における掛売りの役割

画像はイメージです。実際とは異なる場合があります。

こんにちは。アラームボックス取締役審査部長の高見です。

今回は、与信管理のスタートラインである「掛売り」についてです。

このシリーズ「経営者・取締役のための与信管理」では、マネジメント層の方を対象に、経営判断する上で欠かせない基本的な与信管理の知識から、実際に起こりうるイレギュラーなケースへの注意事項や対処方法など、経営と実務の経験者の観点からお伝えします。

掛売りとは

商取引において、掛売りで商品を販売することが一般的です。そこで、まずは「掛売りとは何か」から解説していきます。

掛売りとは?掛売りの意味は?

掛売りとは、商品やサービスを販売または提供する際に、一定期間後の定められた日に代金を受け取る約束をして、先に商品を渡したり、サービスを提供したりすることです。つまり後払いで商品を売ることですね。掛売りの取引形態のことを、売掛取引掛け取引掛け払いともいいます。

京都花街のお茶屋も掛売り(掛取引)の一種

皆さんは京都の花街にあるお茶屋さんのほとんどが「一見(いちげん)さんお断り」ということを聞いたことがおありでしょう。すなわち誰かの紹介がなければお茶屋さんに入ることができないというシステムです。京都の閉鎖性と取る向きもあるようですが、これは一種の掛取引であり、与信管理の基本を押さえていて興味深い話です。

つまり、お茶屋遊びの料金(花代、飲食費、交通費など)はお客に替わってお茶屋が立て替えて払うシステム(掛取引)だからで、信頼関係のない「一見さん」を受け入れないのは当然の話。さらに紹介者は一種の連帯保証人みたいになり、この掛取引の代金回収は確実になります。代金回収の確実性を判断することが、とりもなおさず与信管理の基本であり、掛売りをする上で最も考慮すべきことです。

このことからも掛取引は信用が高い人=支払が確実と見込まれる人に許容されるシステムだということです。

商取引における掛売り(掛取引)の事例

商取引の場合は、当月月初から月末までに商品を納品した分の代金を、翌月末日までに支払うケースが多くみられます。この掛売りの方法を「末締め翌月末払い」や「30日サイト(締め日から30日後に支払うため)」などと言います。掛売りの代金の支払いまでの期間は、業界や商材、売り手と買い手の関係性などにより異なります。当然、信用できる企業に対して掛売りをすることになります。

掛売りと売掛の違い

掛売りに対して売掛という言葉がありますが、意味としてはほとんど同義と捉えて問題ありません。売掛の場合は主に「売掛金」として、会計用語で使われることが多いです。掛売りで販売した代金は、代金の回収が完了するまで会計上の資産である売掛金として計上します。また、売掛金は将来受け取る予定(権利がある)の代金のため、売掛債権ともいわれます。

掛売りのメリットとデメリット

商取引では一般化している掛売りですが、買い手側からすると毎回現金で購入する必要がなく、一定期間後にまとめて支払えば良いわけですから大きなメリットがあるのは容易に理解できます。では、売り手側には掛売りにどのようなメリットとデメリットがあるのかをお伝えします。

掛売りのメリット

まずは掛売りのメリットから順にみていきましょう。

掛売りなら販売機会を逃さない

商取引は多額のお金が動きます。掛売りによって、買い手側は多額の現金を準備することなく、購入することができます。そのため、商談の流れでそのまま販売まで行うなど、販売機会を逃さずにすむことが、掛売りの大きなメリットです。

掛売りは継続取引になりやすい

掛売りをすると、毎月いつ納品をして、何日に代金を回収してという流れが出来上がります。この流れの中でお互いに信頼関係が形成されるため、トラブルなどが無ければ、別の取引先に乗り換えられることなく、継続取引となりやすくなります。

掛売りで販売単価のアップ

買い手側は代金の支払い日までに余裕があるので、将来入金になる資金も見越して、購入することができます。また、掛売りの請求は月にまとめてされるため、購入する度に金額を気にする必要がありません。購入手続きが簡単なこともあり、販売単価は上昇する傾向があります。これも掛売りの隠れたメリットといえます。

掛売りにより業務の手間が削減

現金で毎回お金をもらっていたら、常に釣銭も準備しなくてはないため大変です。さらに現金の紛失リスクもあります。掛売りなら、通常月に1回まとめて請求をするだけなので、業務の手間が少なくてすみます。

取引相手から選択肢として排除されない

これはメリットというよりも、むしろ商取引では慣習として掛売りがほとんどのため、都度現金で支払って欲しいなどと言っていたら、相手から嫌がられてしまいます。みなさんの会社が他では入手不可能な商品を扱っている場合などを除き、取引をしてもらうためには、掛売りは避けては通れないことがほとんどでしょう。

掛売りのデメリット

次に掛売りのデメリットをみていきます。

代金未回収などの焦げ付き、貸し倒れの発生

掛売りの最も大きなデメリットは、掛売り代金の未回収リスクです。受注がとれて商品やサービスをどんどん提供していって、いざ支払日になったら相手が支払うお金がないというケースです。すでに此方側もそれなりの投資(設備や仕入れなど)や労力をかけている訳ですから、相手から支払いがなくても、仕入れ代金や給与などの支払いは発生します。考えただけでぞっとしますね。いわゆる黒字倒産や連鎖倒産が発生する主要因のひとつです。

代金が未回収になることを、焦げ付きや貸し倒れが発生したともいいます。会計上では、回収できる可能性がないと判断された売掛金は、貸し倒れ引当金として損失を計上する必要が有ります。そうならないために与信管理が重要なのは言うまでもありませんね。

ある程度の資金が必要

掛売りは後払いなので、支払日まで入金がありません。そのため、支払日までに会社で必要な資金をきちんと確保しておく必要があります。この資金のことを運転資金といいます。例えば、掛取引の入金までのサイトが30日なら、その2倍の60日分の運転資金は確保しおいた方が良いでしょう。

また、買掛(掛買い)を使うこともひとつの手段です。なにかを仕入れる場合や購入する場合の支払いを掛け払いでさせてもらうことによって、支払いに余裕を持たせることができ、運転資金を捻出できます。

与信管理の費用と労力

掛売りによるリスクを回避するためには、与信管理をする必要があります。与信管理では、取引相手を調査(与信調査)して、いくらまで掛売りをするか与信限度額与信枠を決める必要があります。そのためには、与信調査費用や労力が発生します。これも費用はかかりますが、掛売りの代金である売掛債権に保険や保証をかけて、未回収リスクを回避するという選択肢もあります。

掛売り以外の決済手段

掛売り以外では、もちろん現金取引がありますが、上述のとおり現実的ではありません。従前は回収手段として手形がありましたが、手形取引は昨今かなり減少傾向にあります。

買い手が個人事業主やフリーランスの場合など、比較的少額の取引であれば、クレジットカードや決済代行も決済手段の選択肢のひとつになるでしょう。

一般的な商取引では、掛売りは他の手段と比べてメリットが非常に大きく、また買い手側との関係構築という観点でも優れているため、掛売りを決済手段として有効活用していくことになります。ただし、与信管理の方法についても考えておきましょう。

掛売りを開始するにあたって

掛売りを始めるときには、取引相手の調査をします。これを企業調査与信調査といいます。企業調査や与信調査をして審査をする方法は別の記事で紹介しますが、与信管理の知識がなくても掛売りを簡単に始める方法があります。

掛売りの簡単な始め方

紹介者がいない一般の商取引では、どのような状態になれば掛取引は可能(=支払が確実と見込まれる)と判断できるのでしょうか。

現金取引で掛売りを始める

現金取引を一定の期間続けることで信頼関係=代金の支払いは確実そうだ、と判断できれば、掛取引へと移っていく順番です。最初に相手との交渉は必要ですが、取引(支払)実績という事実の積み重ねは、相手の印象や与信調査による判断よりも、はるかに効果があります。

少額から掛売りを始める

掛取引の金額を少額から始めるのも有効な手段です。信頼関係ができるまでは掛売りの金額を抑えて、しだいに増額していくやり方です。現金や少額で実績をみて判断していくことを、与信管理的には、取引実績から代金回収の確実性を判断するといえます。

掛売りの注意事項

これまでに掛売りの始め方として、取引実績から代金回収の確実性を判断するのが良いと述べました。しかし、世の中にはそのような行動を逆手にとってくる悪い人たちもいます。

惑わすようで気が引けますが、現金取引が長く続いたから、しかも少額の掛け取引の代金が回収できたからといって安心できません。取り込み詐欺の存在です。取り込み詐欺は最初の何度かの少額取引は正常に支払いを行い、相手が信用したところで大口の掛取引を持ちかけ、納品されたところで姿をくらますという手口です。

与信管理の一般論としては、取引実績から代金回収の確実性を判断するのは効果的ですが、完璧ではないこともわかりました。もちろん取り込み詐欺は犯罪行為です。しかし、みなさんも会社を経営するからには自分の会社は自分で守らなければなりませんので、油断は禁物です。