企業がコンプライアンス違反をすると、最悪の場合は倒産に至るなど影響は甚大です。具体的な違反事例を交えながら、法令違反が起こる原因や影響、対策について紹介します。
企業の社会的信頼を、一気に失墜させる可能性があるコンプライアンス違反。自社の利益を追求するだけでなく、企業の社会的責任(CSR)を果たす姿勢が企業に求められる今、経営における最重要課題のひとつです。
ここでは、コンプライアンス違反が起きる理由やその影響について、実例を交えてご紹介します。
目次
コンプライアンスとは倫理観を守りながら、法令を遵守して経営すること
コンプライアンス(compliance)は、「法令遵守」を表す言葉です。
企業活動を行う上で法律を守るのは当然のことですが、企業は単に法律を守るだけでなく、社会の行動規範を犯さないこと、倫理観に背かないことを前提にコンプライアンスを守らなくてはなりません。社員一人ひとりが、「自分の行動や会社の決定が報道されても恥ずかしくないか」といった視点を持つことが大切です。
コンプライアンスを正しく理解し、社内に周知徹底することには、下記のようなメリットがあります。
不祥事を未然に防げる
コンプライアンスの意識が社員に根づいていると、例えば収賄や贈答、消費者を欺く詐欺まがいの行為といった誘いを受けた際、社員自身がストッパーとなって不正行為に手を出すのを回避することができます。
また、社内にコンプライアンス違反を抑止する意識が浸透していれば、違反の芽を早期に発見し、大きな不祥事につながる前に対処することができるでしょう。
企業の社会的信頼を勝ち得て、安定した経営を継続できる
「パワハラをしない」「過重労働をさせない」「不正行為によって収益を上げない」といった当たり前のことを当たり前に遂行していると、コンプライアンス違反による経営リスクが低減するだけでなく、「働く人を守る、信頼性の高い企業」として評価されていくでしょう。
安定した経営に欠かせない社会的信頼を勝ち得ることもメリットだといえます。
コンプライアンスとコーポレートガバナンスの違いは?
コンプライアンスと併せてよく使われる言葉に、「企業統治」を意味するコーポレートガバナンス(Corporate Governance)があります。
一部の経営層が独りよがりな利益追求に走ったり、情報漏洩などの経営リスクが発生したりしないよう、社外取締役や社外監査役を設けて客観的な視点で管理します。
コンプライアンスを守るための管理体制が、コーポレートガバナンスであるといえるでしょう。
コンプライアンスに注目が集まる背景
コンプライアンスに注目が集まるきっかけになったのは、1990年代後半から本格的に行われた大規模な規制緩和でした。これは、経済活動への政府の関与度合いを引き下げ、民営化による競争を促進することで経済成長を目指すものです。
しかし、企業活動が活発化する一方で、不正融資や粉飾決算、損失隠しといった不祥事が相次ぎました。中でも、四大証券の一翼をなしていた山一證券の損失隠しに端を発する自主廃業は、世間が企業の倫理観に疑いを抱く大きなきっかけになったと考えられます。
さらに、SNSが普及した近年では、従業員の不適切な行動が瞬く間に拡散されるようになりました。企業には、消費者一人ひとりが監視の目を持っているという意識を持ち、より高い自制心にもとづいて行動することが求められています。
なぜコンプライアンス違反は起きるのか
企業経営の根幹を揺るがすコンプライアンス違反は、なぜ起きてしまうのでしょうか。考えられる理由について見ていきましょう。
過去の常識のまま経営が行われている
現代なら一発退場になるようなパワハラやセクハラ、長時間労働、性別による差別などが、平然と行われていた時代もあります。こうした企業風土を改革できていない場合や、法律が変わったことを知らない、社員一人ひとりがコンプライアンスについて学んでいない場合に労働基準法に抵触してしまうなど、コンプライアンスに違反してしまうことがあります。
内部統制ルールがない
コンプライアンス遵守を呼びかけていても、きちんとした内部統制の仕組みがなかったり、ルールがあっても周知されていなかったりすれば、違反は起きやすくなります。「うすうす違反に気づいていても報告先が明確でなく注意に至らない」「お金の管理が特定の人に集中している」「社員の機密情報へのアクセスが容易」といった環境は、大きなリスク要因です。
社員を追い詰めている
社員に厳しいノルマを課してプレッシャーをかけていたり、上司の命令が絶対だったりすると、追い詰められた社員が逃げ道としてコンプライアンス違反に走る場合も考えられます。
こうした場合は評価制度を見直し、マネジメント側の意識改革を図ることが急がれます。
コンプライアンスに違反した場合に考えられる影響
コンプライアンス違反は、企業にさまざまな損失をもたらします。考えられる影響について確認しておきましょう。
社会的信用の失墜
メディアを通じて違反の事実が広まったり、SNSで悪い口コミが拡散したりすると、顧客は企業に対して不信感を抱きます。顧客離れが起きるだけでなく、クレームの電話などが相次ぎ、本業に支障をきたすこともあるでしょう。金融機関からの信用力も低下するため、必要な融資を受けられないなど、経営に与える影響は甚大です。
業績悪化
社会的信用が失われて顧客離れやブランド力の低下が起きると、売上が減少します。こうした事態が続けば、業績はいずれ悪化するでしょう。
罰則を受ける
法令に違反した場合、業務停止命令や業務改善命令などの行政処分を受けることになります。刑事事件に発展すれば、経営者や社員が逮捕されて懲役刑や罰金を科されることもあるでしょう。民事事件として提訴され、裁判で損害賠償責任が追及されることも考えられます。
従業員離れ
コンプライアンス違反が日常的に行われていると、真面目に仕事に取り組んでいる社員のロイヤルティが低下します。「自分も同じだと思われたくない」といった理由で、離れていく社員が増えるかもしれません。
また、応募を検討していた人や内定者が不正を知り、応募を取りやめたり、内定を辞退したりすることもありえます。
株主離れ・倒産
企業のマイナスイメージは株価に直結するため、コンプライアンス違反の深刻度によっては株主離れが起きるでしょう。経営を存続できず、倒産に追い込まれる可能性も否定できません。
コンプライアンス違反の事例
ここからは、コンプライアンス違反の事例をご紹介します。具体的な事例を交えつつ、よくあるコンプライアンス違反について見ていきましょう。
給与や報酬の未払い
給与・報酬の未払いは、労働に対する正当な賃金が支払われていないコンプライアンス違反です。株式会社セブン-イレブン・ジャパンが労働基準監督署から指摘を受けたケースでは、パート・アルバイトへの残業代の未払いが4億9,000万円に上りました。
長時間労働
1日8時間、週40時間の法定労働時間を超えて社員を働かせる場合、36協定を締結して労働基準監督署に届け出をし、しかるべき残業代を支払わなくてはなりません。ワタミ株式会社が運営する「ワタミの宅食」では、1ヵ月間に175時間の残業が発生していたにもかかわらず、残業代未払いだったことが発覚しました。
パワハラ
パワーハラスメント(パワハラ)は、社会的な地位の優位性を利用したいやがらせ、暴言、暴力などです。株式会社新潟プロバスケットボールでは、代表取締役兼GMのパワハラが判明し、代表取締役社長およびGMが解任となりました。
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セクハラ
セクシュアルハラスメント(セクハラ)は、性的ないやがらせのこと。女性向けアパレルブランドを展開する株式会社ストライプインターナショナルでは、代表取締役社長兼CEOのセクハラが報道され、辞任に至りました。
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業法違反
業種ごとに定められた法律を業法といいます。株式会社グローバル・トラストは、正当な理由なく報告のための来庁をしなかったとして、業法違反(宅地建物取引業法違反)で東京都から行政処分を受けました。
粉飾決算
会計処理を操作し、経営状態を良く見せる粉飾決算。手芸用品を販売する株式会社サンヒットは、15年にわたる粉飾決算が表面化し、民事再生法を申請しました。
不正会計
不正会計は、財務諸表を偽装して不正な会計報告を行うことです。シャープ子会社のカンタツ株式会社では、売上高を約75億円も水増ししていたことがわかりました。
改ざん
業績や性能を良く見せることや、品質などの問題点を隠蔽することを目的として、意図的にデータを書き換えるのが改ざんです。東証一部(2022年4月4日に実施される株式市場再編によって、最上位は「東証プライム」となり、現在の東証一部銘柄の8割強が移行します)上場の久光製薬株式会社でも、商品の着色料データの改ざんがわかり、医薬品医療機器法にもとづく業務停止処分となりました。
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個人情報流出
企業が保有する膨大な個人情報が、意図的、またはシステムトラブルなどによって流出する事件は後を絶ちません。東建コーポレーション株式会社は、第三者による不正アクセスを受け、最大約65万件の情報が外部流出したことを公表しました。
景品表示法違反
消費者に誤解を与えかねない過大広告や不当表示は、景品表示法違反にあたります。株式会社サンドラッグは、新聞折り込みチラシにおいて、すでに存在しないメーカー希望小売価格と比較した割引表示を掲載し、措置命令を受けました。
コンプライアンス違反しないために企業がするべきこと
コンプライアンス違反による、経営への影響は甚大です。法令遵守しながら企業活動を行うには、どうすればいいのでしょうか。コンプライアンスを守りながら経営を行っていく上で必要な手順について確認しましょう。
1.どのようなコンプライアンスリスクがあるか洗い出す
まずは、自社の体制を見直し、コンプライアンス違反の温床となりうるリスク要因を洗い出して改善を図りましょう。
2.経営において最低限押さえておくべき法律を弁護士に確認する
弁護士に相談し、業法など、自社の経営に最低限必要な法律の知識を習得します。
3.社内統制ルールを明確化・明文化し、周知する
社内で守るべきルールを定め、全員が共有できるように周知します。
4.担当部署を決める
有事の際の相談窓口を一本化し、すみやかな対処につなげるため、権限を持った専任の部署を作ります。
コンプライアンス違反した場合にできること
対策をしていてもコンプライアンス違反が起きてしまったら、担当部署を中心に内部調査チームを立ち上げ、まずは情報収集に努めましょう。後から重大な事実が見つかって隠蔽を疑われたり、外部から指摘を受けて批判につながったりすることがないよう、発生原因、事実関係、被害情報等の情報を集約します。
また、法律が絡むため、専門家である弁護士に相談して適切な対応をアドバイスしてもらうことも大切です。調査結果については、再発防止策と併せて公表し、信頼回復に努めてください。
自社だけでなく、取引先のコンプライアンス遵守にも注目を
コンプライアンス遵守の重要性と違反した場合に考えられる影響、対策などをご紹介しました。自社でコンプライアンス遵守の体制を構築することはとても重要ですが、新規の取引先とビジネスをスタートする際には、相手企業のコンプライアンス遵守に対する姿勢や方針を見極めることも重要です。
「アラームボックス」なら、取引開始前に相手企業の経営状況をチェックすることができます。また、インターネット上に存在する既存取引先の風評や信用情報を継続的に調査し、不穏な動きを察知してお知らせするサービスもあります。これらを活用することで、取引の安全性を高めることができるでしょう。