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取り込み詐欺とは
取り込み詐欺とは、商品を後払いで購入して、先に商品を送付させ、商品を受け取ったあとに、商品の代金を支払わずに盗み取る詐欺行為です。
怪しまれないようにするため、商品を後払いで購入する際に、最初の1・2度は信用をつけさせる目的で、少額を前払いで購入するケースも多くみられますが、結局は支払期日付近には夜逃げしたり、法的整理を行う計画倒産のような、「取り込み詐欺」も増加しています。
また、マスコミにも大きく取り上げられた、架空のグルメイベント開催をうたい、飲食店から出展料を集めて倒産した「グルメンピック」のようなケースも取り込み詐欺の手口の一種といえます。取り込み詐欺は一度商品を卸したら最後、決して代金を回収することはできません。
取り込み詐欺対策の必要性
近年、企業間取引や商取引などのBtoB取引も、インターネットの普及や物流網の整備などに合わせ、全国、さらに海外へと広がっています。以前は顔の見える範囲で、お互いの代表者をよく知っている関係での取引が多かった企業でも、売上拡大に合わせて新規取引先が増加し、様々な地域の企業と取引を行う機会が増加していることでしょう。このような商取引の変化も、業種を問わず改めて取り込み詐欺を警戒しないといけない理由のひとつです。
取り込み詐欺の手口と事例
取り込み詐欺手口
取り込み詐欺の手口は、まずは設立が古くて休眠状態になっている会社を買い取り、事務所なども開設して数名のメンバーを揃えます。名刺やホームページなどもあり、あたかも通常通り運営をしているように見せかけ、何回か少額の取引を繰り返します。
このように取引実績を重ねて信用を獲得した段階で、掛取引(後払い)で大口の取引を持ちかけ、商品を手に入れます。その後、支払い期日までに連絡がとれなくなります。結局、居場所がつかめないまま未回収に終わるか、破産や倒産になって、やはり回収できなくなります。このような手口が代表的な取り込み詐欺です。
取り込み詐欺事例
取り込み詐欺の事例で多い商品は、圧倒的に転売目的、つまり換金性の高い商品です。代表的なところでは、食品(米などの農産物から肉、加工食品まで)や家電、OA機器などがあげられます。特に食品の取り込み詐欺では、東日本大震災の復興支援の商談会をきっかけにして、1億円以上の取り込み詐欺を行った、大阪の食品卸会社の事例が大きなニュースになりました。
取り込み詐欺の被害にあわないために
あなたの会社が、他では決して手に入らない商品を扱っていたり、新規取引を増やす気がないのであれば、取り込み詐欺にあわないために、新規取引先を獲得しない、すべて前金、保証金を積ませるなどの対策を打つこともできます。しかし、ほとんどの場合、売上に悪影響を及ぼすことは明らかです。
売上に悪影響を与えず、取り込み詐欺の被害を回避するためには、企業調査や与信調査によって取り込み詐欺をしっかり見抜き、取引をしないという選択をする以外にありません。取り込み詐欺にあわないための企業調査方法のうち、まずは、商業登記簿謄本の情報から取り込み詐欺を見抜く方法についてお伝えしていきます。
商業登記簿謄本の情報から分かる取り込み詐欺対策
商業登記簿謄本は、会社謄本や法人登記簿などと呼ばれることもありますが、正式名称を「登記事項証明書」といい、会社法や商法の規定により、商号・本店、目的や役員など取引上重要な一定の事項を公開するために、商業登記された内容が記載されています。
商業登記簿謄本情報の注意点
意外と記載情報の多い商業登記簿ですが、その情報は、あくまでも過去情報です。そのため、その会社の現在の状況を知るという意味での、与信調査には利用できません。登記されているからといって、その会社が現在も存在するのかすら、わからないのです。しかし、商業登記簿は、会社のそれまでの流れを把握できる貴重な情報です。そのため、取り込み詐欺を見抜くための要素が大いに詰まっています。
代表者・取締役のチェックで取り込み詐欺対策
代表者・取締役のチェックについてですが、商業登記簿の中でも最初に抑えておきたい重要なポイントです。商業登記簿では、代表者及び取締役の氏名が確認できます。商業登記規則の改正で平成27年2月以降は、新任取締役の登記には、本人確認証明書が必要となっており、情報の信頼性も高くなっています。
取り込み詐欺は、1回で億単位のお金を不正に稼ぐこともでき、また、刑事事件として摘発するのが難しいといわれる詐欺であり、取り込み詐欺を行う人は、繰り返し取り込み詐欺または詐欺まがいの行為を行う傾向にあります。そのため登記されている経営メンバー、代表者や取締役が問題のない人物なのかをチェックすることで、取り込み詐欺を未然に防ぐことができるのです。マスコミにも報じられた「グルメンピック」のような詐欺から身を守るためにも、対策は怠らないようにしましょう。
まずは検索エンジンを使い簡易に情報を取得
取り込み詐欺を防ぐための簡易な与信調査の方法としては、Googleなどの検索エンジンで特定のキーワード(例えば逮捕、詐欺など)とセットで検索をする方法があります。過去に似たような取り込み詐欺を行っている人物である場合、検索でネガティブな情報を見つけられることも多く、ある程度情報を取得することが可能です。
この与信調査方法は、多くの情報取得ができる一方で、本人ではない、同姓同名であるだけというケースも考えられるため、本当に本人なのかどうかについて、周辺情報から判断することが重要です。この判断のためには、営業担当者が会ったのが代表者や取締役であれば、年令や経歴など判断するための情報を事前に取得している必要があり、またその情報をしっかりと共有していることが必要となります。日ごろから営業担当者に、聞いてきてほしいことやチェックすべき点、報告することなどを決めておくといいでしょう。
アラームボックスを利用すれば、自動で情報を収集することも可能です。情報収集に時間がかけられなかったり、精度に不安がある場合はぜひご利用ください。
過去の代表者や取締役も要注意
経営メンバーのチェックで、特に気を付けたいのが現任ではない、代表者や取締役についてです。過去の代表者や取締役については、現在の会社と関係がないため、チェックが漏れがちですが、実は要注意なのです。
まともな商売をする気のない会社の場合、同じ法人を使いまわす(社名変更や本店を移転させて、新たな会社として使う)ことが往々にしてあります。その場合、現在の取締役や代表者に関しては、名義を借りて登記しておいて、その実、過去その会社で悪さをした同じ人物が、会社を動かしていることもよくあるパターンなので要注意です。
反社会的勢力のチェックにも活用
この経営メンバーチェックは、反社会的勢力に関連する企業ではないかどうかを判断(略して「反社チェック」ともいわれます)するのにも大いに役立ちます。世の中では、暴力団排除条例いわゆる暴排条例が全国で施行され、反社会的勢力排除の流れの中にあります。反社会的勢力(反社)との取引があることは、金銭的なリスクだけではなく、企業イメージが大きく損なわれ、条例違反を問われるリスクも大いにあります。
経営メンバーを検索エンジンで検索することだけで、取り込み詐欺を防ぐためのすべての情報を取得でき、万全とまでは言いませんが、取り込み詐欺の対策としてはもちろん反社会的勢力に該当する人物か否かもチェックすることができます。皆さんも新規の取引依頼が来た場合などは、ぜひチェックしてみてください。
商業登記簿の「目的」「移転歴など」のチェックで取り込み詐欺対策
今度は、商業登記簿の「目的」「移転歴など」から取り込み詐欺を見抜くためのポイントです。
商業登記簿は、主に以下のような事項で構成されていました。
①会社法人等番号 | 登記所による企業の識別番号 |
②商号 | 企業の名称 |
③本店所在地 | 登記簿上の本店所在地 |
④設立年月日 | 法務局に登記を申請した日 |
⑤目的 | 業務内容 |
⑥資本金の額 | 出資者が会社に払い込んだ金額 |
⑦役員に関する事項 | 取締役、監査役の名前、代表者についてはプラス住所 |
⑧支店 | 登記されている支店(記載されていない場合も多い) |
⑨登記記録に関する事項 | 本店移転など |
「目的」のチェックポイント
まず、「目的」でチェックすべきポイントから始めます。ここには、その会社がどの様な事業を行なっているのかが記載されています(ただし、記載だけで実際に行っていないものもあります)。目的がひとつだけ記載されるのはまれで、一般には複数の事業が記載されています。
この「目的」と皆さんの会社が取引しようとしている商品が一致しないときは要注意です。懸念がある場合は、実際にどのような事業目的のための取引なのかについて相手方に十分にヒアリングすることが必要です。新規事業で登記が未済なだけの場合もありますが、納得がいくまでヒアリングし、腑に落ちなければ取引を断る勇気をもってほしいと思います。
これに対して、取り込み詐欺を企てる側も広範囲の商品を取り込もうと考え、思いつく限りの目的を記載する傾向があります。ただ、「頭隠して尻隠さず」のたとえの通り、会社の規模に対して多すぎる目的も取り込み詐欺を疑うポイントとなります。資本金の額や売上高、事務所の広さなどとの比較が有用になります。
上述したような「目的」のチェックだけでも損害を防ぐことが可能です。実際に営業所を訪問・実査するときに確認するポイントがハッキリ・明解となるからです。
こんな時のためにも事前チェックが大切
このような実例がありました。冷凍食品が取引商品だったわけですが、買い手企業の目的には該当がありません。そこで売り手側の担当者が訪問すると、そこには冷凍装置などがなかったようです。問いただしても冷凍庫を買うとか・借りるとかの十分な答えが得られません。このように事前に企業調査の視点で商業登記簿をきちんと確認をしておけば、おかしなことや辻褄が合わないことも確実に気づけますが、もし準備なしに訪問すれば見逃していたかもしれません。取り込み詐欺の対策として、事前に商業登記簿で情報をチェックしておくことは有用です。
「移転歴など」のチェックポイント
つぎに「移転歴」についてです。一般に会社の本店事務所を引っ越すと本店所在地の変更登記をします。
これには2種類があります。移転先住所が同一の登記所の管轄区域内の場合「本店所在地」欄の旧住所に抹消を表す下線が引かれ、その下に移転後の住所が記載されます。このような住所移転の場合は取り込み詐欺の確率は低いと考えられます。
他方、移転先住所が他の登記所の管轄区域内の場合は注意が必要です。とはいっても普通の引っ越しのほうが圧倒的に多いので、このことだけをもって取り込み詐欺とは判断できません。
登記所の管轄区域をまたぐ移転の場合に注意が必要なのは、商業登記簿の仕組みが取り込み詐欺にとって都合が良い面があるからです。
では具体的に移転の登記を見てみます。旧住所の商業登記簿には「登記記録に関する事項」に平成XX年X月X日新住所に移転と記載され、旧住所の商業登記簿は閉鎖となります。一方、新住所の商業登記簿には「登記記録に関する事項」に平成XX年X月X日旧住所から転入と記載されます。さらに、その他の事項については、最新の情報が閉鎖登記から移行されますが、変更履歴は移行されません。
移転前の閉鎖された登記にも情報がある
ここが取り込み詐欺を防ぐために知っておくべきポイントです。会社自体の売買を疑わせるような「代表者の就任・退任」、「目的」の変更を移転前に登記すれば、これらの事項は閉鎖された商業登記簿には記載されますが、移転後の商業登記簿には記載されません。つまり、現在の商業登記簿の目的などに不審な点がなくても、「登記記録に関する事項」に平成XX年X月X日旧住所から転入とあれば、さかのぼって閉鎖された商業登記簿の内容を確認すべきということです。最新の謄本から最終欄にある記述を頼りに一つずつ根気よく遡って確認することが、取り込み詐欺にあわない秘訣です。
取り込み詐欺の場合、すでにある会社を利用する場合が多いのが事実です。「設立年月日」も古く業歴の長い会社の箱を利用して信用を得ようとするためです。「資本金」も多いとなおハクがつきます。ただし、会社自体が売買されると、「商号」「目的」「役員に関する事項」の多くが変更となります。これらを閉鎖された商業登記簿に閉じ込めてしまうのが取り込み詐欺を働くものの狙いです。
このように商業登記簿は過去情報とはいえ、会社のそれまでの生い立ちを把握できる貴重な情報です。現在の事項だけでなく、遡れる閉鎖登記があるならば丹念にさかのぼるだけの価値はあると断言できます。皆さんも実践なさることを強くお勧めします。
最後に、不幸にも取り込み詐欺にあわれた方に一言。この詐欺にはグループ的なものが存在します。リストの有無は不明ですが、被害にあわれた方のもとにはあの手この手と手法を変えて勧誘があると聞きます。つぎはこのブログが取り込み詐欺の被害防止にお役にたつこと願っております。
当社は与信管理や企業調査を専門に行う会社です。過去に取り込み詐欺に関わった人物をリスト化して蓄積しており、取り込み詐欺判別のためのツールとして活用しています。